ゲーセンバイトの望月さんは恋ができない!
宮坂たきな
ゲーセンバイトの望月さんは恋ができない!
今日も俺のゲーセンバイトが始まった。
平日でもたくさんの人が入ってくるここは、常に人手不足だ。コインの詰まりから、景品の移動まで。
そんなわけで、今も俺、
「この場所で大丈夫ですか?」
「ありがとうございます!」
ああ。こんなふうに喜ばれるとやりがいがあるもんだ。クレーマーなんかいなくていい。大学生活の傍らにやっているが気分がいいな。
俺が作業を終えるとすぐ、また別の依頼がやってきた。
「すいません、コインが詰まっちゃって」
「わかりました。少々お待ちください!」
どうしよう。他にも頼まれていてすぐにはいけない。でもこのお客さんを待たせるわけには。
そう思った俺は、声を張り上げた。
「望月さーん! こっちお願いしまーす!」
そう言うと、彼女は走ってこっちに向かってきてくれた。
「なんでしょう。私今、忙しいので」
「……そう言わずに。この人のコイン詰まりを直してもらえる」
彼女はお客さんを見ると、人が変わったかのように顔色が明るくなった。
「コイン詰まりですね! どこですか?」
そう、この明るい彼女が本当の望月さんだ。
こんなにも冷たいのは俺だけ。
望月さんこと、
彼女は入った時から明るくて、他のスタッフにも好かれている。きっとイケメンで優しい彼氏がいるのだろう。俺みたいな彼女もいたことがないド陰キャがいるゲーセンに似つかわしくない容姿だ。
多分、スタッフの中にも彼女に恋愛感情を抱いている人も少なからずいる。俺はこんなに冷たいのでそうでもないが。ただ、美少女であることに変わりはない。
……とにかく、俺の話は置いておいて、望月さんが俺にだけ冷たいのには訳があった。
遡ること半年前、彼女がバイトに入った時のこと。
俺は一個上の先輩ということもあり、ゲームの説明がてら対戦を申し込まれた。だけど、俺は中学からゲーセンに入り浸っている生粋のゲーマー。こんな小娘程度、一捻りにしてしまった。
それからだろう、望月さんが俺にだけ冷たくなったのは。
「あのー、……あのー! 両替の百円玉がでないんですけど」
「あっ、ごめんさい! すぐ行きます!」
ついぼーっとしてしまい迷惑をかけてしまった。
両替っていうことはさっき望月さんが直した機械だろうか。やっぱり壊れているのかな。今度店長に確認しないと。
お客さんに付いていくと、案の定、望月さんとすれ違った。
「コイン詰まり直った?」
「話しかけないでください」
ああ酷い。だけど、そんな俺にお構いなく、望月さんは別のスタッフに呼ばれる。
「望月さーん! こっち手伝って!」
「はーい! すぐ行きまーすっ!」
もう別人じゃないか。ウキウキ笑顔で仕事する彼女には癒されたり傷ついたり。
なんだか変な気分だ。
両替機を直していると、どこからか視線を感じる。ふと振り返ると、壁の向こうから望月さんが、隠れながら睨んでいる。俺は相当恨みを買ってしまったらしい。多分あれだ。直ったはずの機械が壊れてしまい俺が直していることを、あたかも自分が無能ですと言われているように感じているのだろうか。それか、俺が失敗するのを嘲笑いたいのか。
おそらく後者だな。だけど俺はエリート。ルーキーなお前と違ってこんなの簡単なのだよ。
「直りましたよ。こちら、両替分の百円玉です」
「ありがとうございます!」
ああ、いいことをした。
「景品の補充、お願いしてもいいですか?」
今日はやけに忙しいな。
「もちろん」と言って、クレーンゲームの景品を補充しに行く。希望の景品を取っていると、向かいの台に望月さんがやってきた。フォローという嘲笑を狙っているのか?
ちらちらと俺の方を見れば、景品の位置を直すフリをしている。それで紛らわしているつもりなのだろうけど、残念ながらその台はここ一時間は動いていない。作戦はバレバレだ!
俺が景品を補充し終わり、その場を離れると、望月さんが近寄ってきた。普通なら恋で胸が鼓動するが、今の俺は恐怖でドキドキしている。きっと、「私のこと見ないでください」とかいうのだろう。
「先輩、先上がります」
おっと。この言葉は意外だった。まあ、彼女にとって退勤の報告は誰でもいいのだろう。
「うん、お疲れ様。気をつけて帰ってね」
望月さんは俺の話を無視して更衣室の方に歩いて行った。
そして、またいつもの時間がやってくる。
「先輩、これいらないので持って帰ってください」
毎回、ゲーセンの景品を押し付けてくる時間だ。クレーンゲームの景品に興味ないらしく、いつもぬいぐるみやらフィギュアやらを渡す。おかげで家は倉庫みたいになっている。こっちの気持ちを考えて欲しいものだ。
そして今日、渡されたクマのぬいぐるみに、何やらメモらしいものが挟まっているではないか。気になった俺は、その場で中を広げた。
「『先輩と話した時間』?」
そう呟いた瞬間、望月さんが鬼の形相で紙とぬいぐるみを奪った。顔が真っ赤だ。
「先輩! やっぱり返してください! 気分が変わったので妹にあげます!」
「え、ちょっと。……えぇ」
私服の望月さんは、メモをくしゃくしゃにしてその辺のゴミ箱に捨てた。流石に拾ってまでは見ないけど、見られたくないなら持ち帰るべきでは?
「葵ちゃん、カラオケ行こー」
「おっ、いいね〜。早く行こー!」
さっきまでの彼女はどこに行ったのか。爽やかな笑顔で、待っていた彼女の友達と店を後にした。
そして俺は、困惑しながらその場に立ちすくんだ。
* * *
私、望月葵は大学の友達とカラオケに来ている。さっきまでバイトをしていたのだけど、今日は嬉しいことと恥ずかしいことが起きた。
嬉しいことは、先輩と二十九秒も話せた。いつも緊張して上手く話せないけど、これは初日以来の新記録!
だけど反対に、恥ずかしいことは、今までメモしていた先輩との会話記録をうっかりプレゼントに混ぜてしまったこと。幸い最後まで読んでいなかったから、命拾いした。
「次、葵ちゃんの曲だよ」
「うんうん、それじゃあ、いっくよー!」
バイト終わりに行く友達とのバイトは本当に楽しい。こうして誰かとワイワイしている時が一番楽にできる。
ある日、大学生になった私は、バイトを探している時、たまには珍しいことをしたいと思いゲーセンバイトを始めた。今まで飲食店とかはしていたけど、こんなにオープンな接客は初めて。
あまりみんなには言っていないけど、私はゲームが大好きだ。特に対戦系。ゲームしている時は、楽に素を出せる。だから、好きを仕事にしてみたくて応募した。
慣れない初日のバイトは説明程度だった。ゲーセンの構造に興奮しながら、氷川優先輩に教えてもらった。優しい先輩は、どんな時でもお客さん第一。私の不始末も代わりにやってくれる。
普段、誰かが私を頼ることが多いのだけど、初めて私は先輩に頼りっきりだった。
今まで何度か男の人と付き合うことがあった。だけど、みんな私を頼ってばっかり。私も、誰かを好きになることなんてなかった。でも先輩は私を頼ろうとしない。いつもとは違う感覚に、いつの間にか思いを寄せていた。
もっと私を頼って欲しいのに。
「響け、恋のう〜た。……ふう、疲れたー」
「葵、歌うまいよね」
「でしょでしょ! 点数は……」
——98.051
新記録! 今日は二回も新記録が出た!
これは写真に撮りたい。カバンの中にスマホがあるはず。
心を弾ませながらカバンを漁った。
……あれ、スマホがない。
「どうしたの?」
「スマホがなくって。誰か電話かけてくれない?」
「今かけたよ」
音沙汰無しとはこのことだ。本当に音がしない。マナーモードにでもなっていれば振動するのに。
もしかしてゲーセンに忘れた?
やばいやばいやばい!
先輩に見られたら恥ずかしい!
だって、スマホの待ち受けが先輩の後ろ姿だから!
そう思った私は、頭より先に足が動いた。
「ごめん! バイト先にスマホ忘れたかも! 急いで取りに行ってくる!」
カラオケ屋の扉を飛ばし、私は走って向かった。ここから走って一分くらい。まだ間に合う。
やっとゲーセンの看板が見えた。看板の下に誰かスタッフがいる。あの姿には見覚えが……。
どうしよう! 優先輩がスマホ持ってる! おそらく私の!
恋に落ちた私の頭は単純なので、考えるより先に手が動いた。
「かっ、返してぇ!」
「も、望月さん!?」
両手で先輩の手からスマホを取り返す。だけど、吹っ飛んだスマホを私は取り逃して、落としてしまった。
尻餅をついて、地面に私はへたり込んだ。
しかも最悪なことに、先輩が私のスマホを拾った。それも、画面がついている。
「はいこれ、望月さんのスマホでしょ」
「……は、早く返してください……」
やめてぇ! スマホに目を落とさないで! とりあえず今は私だけを見て欲しい!
「あれ、画面が割れてる。ごめん、俺が落としたせいで。後で弁償するよ」
確認しないでいいから! お願いだから早く返して!
「おっ、ついた。壊れてはなさそうだね。ん? この写真は?」
「ごめんなさいごめんなさいつい出来心で早く返してください……」
今の私は念仏を唱えているのと対して変わらないだろう。如来様、私を誰もいない極楽浄土に連れてって。
「なんで俺の写真?」
「アーもう! 好きだから早く返してください!」
……待って。今私、なんて言った? 「好き」って言ったよね。
熱い。顔も耳も胸の奥も。今ならお湯が沸きそうなくらい熱いし赤い。
「今、俺に好きって言った?」
「ア゛ーー! 復唱しないでください! 先輩が死ぬほど好きなんです! 別にいいでしょ!」
単純な私の頭が憎らしい。舌に歯止めが効かない。緊張と自然が混ざり合って変な人みたいになってる! 本当に変な人じゃないんですぅ!
「俺のことが?」
「……大好き」
本当に黙って!
私の頭はすでにオーバーヒートしていて判断ができない。
冷やかしで笑う先輩。そういうところが本当に好きなの。こんなことなんて言えるはずがない。
深呼吸をして私は口を開いた。
「スマホ……弁償しなくていいので、明日からもいつも通り接してくれませんか……」
ニヤニヤ笑う先輩は言った。
「俺のことが大好きな後輩のために、いつも通りにしてやろう。俺のことが、だ・い・好・き・な、後輩のために」
「ア゛ァァァ!!!! 本っ当にやめてください! また自制ができなっちゃうからー!」
次の日、私の割れたスマホの画面に、先輩とのツーショットが映りました。
ゲーセンバイトの望月さんは恋ができない! 宮坂たきな @tak1na_
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