我が家は家事力レベルMAXの母と、戦力外の父娘パーティー

雪象

第1話 母が出ていった日。残された父娘の戦力外スペック

 その瞬間は、ある日ある時、突然やってきた。


 世界から音がなくなったかのような、一瞬の完全な無音。からの————




「私はあんたたちの召使いじゃなああああい!!」




 無音が一転。ソファにくつろぎスマートフォンに視線を向けていた私は、家中にとどろくほどの母の声に驚いて大きく肩をびくっとさせた。

 さすがに無視するわけにはいかず、おそるおそる背もたれ越しにキッチンに立つ母の顔を見上げると鼻息荒く、力の限り奥歯を噛み締め、目を全開まで開いたおおよそいつもの母とは思えない形相の人物がそこに立っていた。


「毎日毎日毎日……いい加減にして!!!!」


 私は背もたれを防御壁のようにしながら、座ったまま顔を出した。そして、なだめるように、さしてこともなげに、困惑の声色を混ぜて反応した。ほとんど無意識にわずかに嘆息を漏らしながら。


「え……そんな、大げさだよ。そんなことまで言ってな……」

「もういい!!」


 母は手に持っていたボウルを勢いよくキッチンに叩きつけた。分厚い頑丈なガラス製だ。割れはしないが、私はその音でまた肩が跳ねた。


 金曜日の夕方だった。これが、始まりだ。




「おかえりー」


 父が帰ってきた。リビングの扉があいたと同時に私が声をかけると『ただいま』と言いながらきょろきょろと部屋を見回す。


「あれ? お母さんは?」

「んー、それがね……」


 私は父に母がブチ切れたこと、そして家を出て行ったことを話した。


「それ……お前いったい何やったんだ?」

「なんにもやってないよ。お母さん急に怒って出てっちゃった」


 胸の前で両の手のひらを見せながら肩をすくめた。家を出た時の格好を聞かれて、いつも着ているコートと、これもいつもの斜めがけのバッグひとつだけ持っていたと説明する。


「そうか……まあ、すぐ帰ってくるだろ。お母さんも大人だし、心配いらないよ」

「そうだね。あー、あんな怒ったお母さん初めて見たかも。ビックリしちゃった」


 そうして、父はいったんスーツを脱ぐために部屋を出て行った。私もソファに座り直すとスマートフォンに指を滑らせてSNSのタイムラインを流し見しだした。


 少しして、父が部屋着になってリビングに戻ってきた。


「夜ご飯、どうするー?」

「あー、そうだな……モックでも頼もうか」

「いいね!! 賛成!」


 私はすぐさまスマートフォンを取り出すと配達依頼の準備を始めた。夜ご飯に家でファストフードを食べることがほとんどない私は単純に喜んだ。ポテトと、CMやっていた新作のバーガーにしよう。それからシェイクも頼んじゃえ!





 ◇—————◇

 父娘の家事力スペック(10段階)


 父(四十代男性):料理0、洗濯2、掃除3

(備考 一人暮らし歴あり。お湯は沸かせるが料理にはノーカン)


 娘(高校三年女子):料理2、洗濯3、掃除3

(備考 家事力は見様見真似レベル。基本的にはやらない)

 ◇—————◇

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