駄目な精神科医
真田直樹
第1話
「今日は、雨ですね」
そんな言葉から診察が始まることもある。
医学的には無意味で、時間の無駄だと指導医は言った。
だが、その一言で泣き出す患者がいることを、桐島は知っていた。
「誰も、私にそんなこと言ってくれなかった」
それが治療かどうか、桐島には分からない。
ただ、人として言うべきだと思っただけだった。
医局では、彼の評価は最悪だった。
「診断が甘い」
「治療方針が曖昧」
「感情移入しすぎる」
そして決定的な一言。
「君は、精神科医として失格だ」
桐島は否定しなかった。
反論もしなかった。
ただ、診察室の外で待っている患者の名前を、心の中で繰り返していた。
——今日も来てくれた。
——それだけで、いいじゃないか。
彼は白衣を整え、深く息を吸った。
医師としては失格でも、
人間として席を立つことだけは、できなかった。
駄目な精神科医 真田直樹 @yukimura1966
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