新宿バティオス前
茶村 鈴香
新宿バティオス前
何をしにここに来たんだっけ
あなたを
恨む気を捨てたくて
気がついたらここにいたの
コメディショーが始まる
整理番号順に並んで
チケットなんて買ったっけ
でも手の中にあるB-14番
「開場までお待ちください」
この寒いのに?
難民のようにフードをかぶり
手袋をしてガードレールにもたれて
コーヒー飲むほどの時間はない
「お待たせしました」と扉が開く
せっかく来たんだから
気に入りの演者でも探そう
ポスターにある知らない名前達
あの人はイケメン
でもギャグが駄々滑り
この人はいい声してる
でも滑舌が悪くて聞き取れない
コントはきっかけが合わない
漫才はテンポが悪い
聞きたくない下ネタ連呼にも
なんでも笑う女の子たち
あなたをもう一回
信じられたら
家で料理しながら待ったのに
それだって幸せだったのに
あなたをやっぱり
許せないから
1番好きなワンピース着て
1番暖かいコート羽織って
銀行のカードにクレジットカード
Suica に多少の現金
しばらくは暮らせる
捜索願いなんて出さないで
大掛かりな家出
帰るかなんて知らない
コメディショーは私の気持ちに
関係なく進行する
女の子たちの弾ける笑い声
低く独特の声で笑う男の人
私はステージを見ながら
時々あなたのことを考える
ライブがハネた
興奮冷めぬまま
駅に向かう女の子たち
「モリ君かかってたね」
「めっちゃ笑ったんですけど!」
白い息を吐きながら
居酒屋の明かりを眺める
ちょっとだけ飲みたい
終電で帰れる?
それとも
このままこの街の
よくわからないシステムに
巻き込まれていなくなる?
そんな覚悟、本当にある?
ビールグラスの雫を
タオルハンカチで
拭き取りながら迷う
「2杯目いかがされます?」
お姐さんに聞かれる
2杯目飲んでしまったら
終電ないかもしれない
「ドリンクメニューこちらにも」
並ぶきれいな響きのカクテル
あなたはサイドカーが好きだった
横でグラスホッパーを飲んだっけ
メニューを眺めながら
いつまでも答えられないでいる
新宿バティオス前 茶村 鈴香 @perumi
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