番外編「それぞれの恵方」

 騒動から一ヶ月。街には穏やかな日常が戻っていた。

 銀の葉商会は改装され、カフェスペースも併設された人気店となっていた。

 看板メニューはもちろん『福巻き』だが、最近は『おむすびランチ』や『カレーライス』も人気だ。

 

 ある日の午後。

 店じまいをした後、俺たちは賄いの夕食をとっていた。

 今日のメニューは、試作中の『手巻き寿司』だ。

 テーブルに並んだ色とりどりの具材を、自分で海苔と酢飯で巻いて食べるパーティースタイル。

「これ、楽しいですね! 好きなものを好きなだけ巻けるなんて」

 リリアナがサーモンとアボカド(らしき実)を巻いて、大きな口で頬張る。

「俺は肉だけでいくぜ!」

 テオは焼肉を巻いている。それはもはや焼肉の海苔巻きだが、美味いからよしとしよう。

 俺は窓の外を眺めながら、お茶をすすった。

 ガルドは失脚し、黄金商会は大幅に縮小した。街の経済も健全になりつつある。

「ねえ、カイさん」

 不意にリリアナが呼んだ。

「カイさんの願い事って、何だったんですか? あの時、初めて福巻きを食べた時の」

「ん? ああ……」

 俺は少し考えて、苦笑した。

「『美味いものを腹一杯食べて、のんびり暮らしたい』かな」

「なんですかそれ、おじいちゃんみたい」

 リリアナはクスクスと笑った。

「私はね……『ずっとこの楽しい時間が続きますように』って願ったの」

 彼女は少し顔を赤らめて、俺の方を見た。

「叶うかな?」

「さあな。でも、俺たちが頑張れば叶うんじゃないか?」

 俺はとぼけて答えたが、リリアナの笑顔を見て、心の中では確信していた。

 叶えてみせるさ。俺のスキルと、この仲間たちがいれば。

「あ、テオ! 私の海老取らないでよ!」

「早い者勝ちだろ!」

 騒がしい食卓。

 俺は自分の手巻き寿司を作りながら思った。

 これが、俺の求めていた「恵方」なのかもしれない、と。

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