終わらないつづける
金井水月
XYZ
少し前まで、絶滅に色があるとしたら、それは黒だと思ってた。あるいは、灰色。
何にせよ、突然目の前にあった風景が夜の中に飲み込まれてしまうような、怖い、暗い色。
みんなそうでしょ?
でも、本当は違ったんだ。
絶滅の色は、やさしい緑色だった。
やさしくて、あたたかな緑色。
本当の絶滅は、すごく緩慢に、まるでインクの染みがコップに内接円を縁取っていくように。
それは緑色だった。
ありとあらゆる植物が繁茂し尽くして、目に映るすべてのものを生態系に取り込んだ。
かつては「気候」というものがあったらしいね。今はもう、完全に消滅してしまったけど。生暖かい風が地球を回遊しているだけだ。
大昔の人が見たら、さぞ感動してしまうだろうな。
そのさらに大昔の人が見たら、畏怖の念すら覚えてしまうかもしれない。
ぼくにとっては、もうそんなことどうでもいい話だけど。
え、「ぼく」って誰かって?
そんなことは今はどうでもいいじゃないか。どうせもうすぐ終わる運命なんだから、名前なんて気にしたってしょうがないさ。
そもそも名前って自分とそれ以外の境界をはっきりさせるためのものだろう? 今ここにはぼくしかいないから、ぼくはただぼくと名乗るだけで何も問題ないんだ。
ぼくは、ふと立ち寄った海でボトルメールを拾った。
もはやボトルメールと呼んでもいいものなのか。
瓶をかざしてみると、おそらくは手紙だったものが中でどろどろに溶けて、腐った粘膜のようにへばりついている。
海は、心なしか喜んでいるように見えた。
波が砂浜の表面をがりがりと削りながら、何かを発散するように激しくうねりを上げている。
古い言葉で言うと、荒れているって言うのかな?
ぼくはボトルメールを開けてみた。
すると、顔の皮膚が焼けた。
いや、本当に焼けたわけじゃないけど、針で刺されたみたいな刺激が一瞬広がって、すぐに抜けていった。
これは、「つめたい」だ。
つめたかった。
今まで感じたことのない温度を肌で感じることができて、ぼくは無性にうれしくなった。
頬を何度も何度も触って、この知らない温度の残滓を確かめた。
そこでぼくはふと思った。「つめたい」ということはつまり、ぼくは、「冬」を取り出したんだ。
この誰が流したかもわからないボトルメールの中から、ぼくはタイムカプセルとしての「冬」を。
清潔で、神聖な、既に死に絶えた季節を。
ざらついた匂いがする。
気付けば、辺りを漂っていた「つめたい」は、熱を帯びた大気の中へ霧散していった。
ほんの一瞬、すべてを覆い尽くしていた緑の中に、かすかな光のような白が添えられたのを、ぼくは見逃さなかった。
いずれ、未来の「ぼく」がまた見つけることになるだろう、白が。
終わらないつづける 金井水月 @kurage_pancake
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