トガビトガタ

璃亜里亭 無音@ティオンヌマン

〇ニュース①

「今朝未明、新宿区のマンションで、住人とみられる女性が死亡しているのが見つかりました。警察によりますと、室内に争った形跡はなく、遺書のようなものも確認されていることから、自殺の可能性が高いとみて詳しい状況を調べています。女性は一人暮らしで、近隣住民からは『特に目立った様子はなかった』との声が聞かれています」


 夜のニュースでは、淡々とした声でニュースが流れていた。

 今朝未明、新宿区のマンションで――。

 私はそれが自分の娘のことだと知っている。知っている、という言い方は正しくないかもしれない。知らされたのだ。

 警察から聞かされた。何度も同じ説明を受けた。事情聴取も終わっている。書類にもサインをした。それで、すべては片付いたことになっている。

 それでも、テレビの中でその言葉が流れるたびに、少しずつ形が変わる。

 娘は、もう「娘」ではなくなっている。ただの「女性」だ。

 自殺とみられています、という言葉を聞いたとき、私は小さく息を吐いた。否定も肯定もない。そういうふうに処理されたのだ、と思っただけだ。

 台所の椅子に腰を下ろす。背もたれが冷たい。

 事情聴取の時も同じような感覚を覚えた。刑事の声、メモを取る音、机の角。思い出そうとすると、どうしても細かいところが浮かんでくる。

「何か、心当たりはありませんか」

 何度も聞かれた質問だ。そのたびに、私は首を横に振った。本当のことを言えば、心当たりはいくらでもあった。でも、それを口に出したところで、娘は戻ってこない。

 テレビでは、近隣住民のコメントが流れている。

「挨拶はしていました」「特に変わった様子はなかった」

 私は、思わず笑いそうになった。娘がどんな生活をしていたか、誰も知らない。私でさえ、知らなかったのだから。


私は女でいることを常に求めた。それは母親になってからも変わらなかった。そのためには男が必要だった。誰でもよかった、私に価値を与えてくれるなら。

そんな私を、娘は避けた。おそらく、同じ女性としての嫌悪感があったのだろう。家を出てからはこちらからの連絡にもほぼ応じず、最低限の返事しか寄こさないようになっていた。私は女でもいたかったが、母親でもいたかった。娘には愛情を注いできたつもりだった。でもすべては「つもり」でしかなかったのだろう。結局私は自分を優先し娘をないがしろにした。その結果がこれなのだ。

 画面の中の文字が切り替わる。私はリモコンを置いたまま、しばらく動けずにいた。

 ――もう終わったことだ。

 そう言い聞かせるように、胸の奥で何度も繰り返した。

 終わったはずなのに。

 なのに、何かが終わっていない気がしてならなかった。

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