新商品『職人の手』
ネオローレ
職人の手
「この度、私達は素晴らしい商品を開発しました!」
「はあ‥‥‥」
訪問販売員たるものこの程度の反応の薄さで満足してはいけない。
この顔はドアを開けたことを後悔している顔だ。その顔に目にもの見せてくれる。
「弊社が苦心に苦心を重ねて作り出した画期的な新商品。それがこちら。『職人の手』です!」
箱の中から一個の手袋を取り出した。
「この商品は何と、職人の腕をコピーする能力を持っているのです!」
「何だって?」
よし、少しながら食いついた。このまま釣り上げる。
「そうです!例えば何か中華料理を作りたいとしましょう。
そんな時には手の甲のモニターにある『中華料理人』の所をタップして料理を作り始めると、ただの家の炒飯が一気に高級中華料理人が作った料理に早変わり!すごいでしょう?」
「‥‥‥」
よし。このまま押し切るぞ。
「勿論中華料理人だけではありません。セレブな喫茶店の店長に設定すれば毎朝極上のコーヒーを嗜めますし、何と柔道の達人という風にも設定することが可能です。」
「‥‥‥それって好きな機能も付けることが出来るのですか?」
釣り上げた。私はそう確信した。
「勿論です!この手袋を付けて登録したい動作を三回ほど繰り返せば直ぐに登録して、いつでも使えるようになります。
これだけ便利で、画期的で、新時代を担うこと間違いないこの製品が今ならなんと39800円!おひとついかがでしょう?」
「‥‥‥分かりました。買います」
私は今日一番の笑顔を意識して言った。
「お買い上げありがとうございます!」
初めて『職人の手』を売ったあの日から一ヶ月。
職人の手は売れに売れた。
家電コーナーの3個の列が職人の手で埋め尽くされた時もあった。
わが社はこの技術を誰にも渡さずに特許料をむしり取り、一躍大企業へと成り上がった。
私はこの会社が成り上がった火種を作った男なのだ。
それなのに、どうして、どうして。
「最近営業の業績が悪いぞ?訪問販売に至ってはこの半年で1件しか成立してないではないか?君の指導で改善できないかね」
「‥‥‥申し訳ございません」
何故少し昇進しただけで済まされるのだ?
何故昔と変わらない上司に𠮟られなければならないのだ?
「すぐに対応してくれ。君には信頼があるからな」
「はい」
だが業績が減っているのはまぎれもない事実だ。
最近訪問販売もしていない。指導するなら一度現場を見なければ。
早速売る予定の商品を持って外回りへと出かけた。
「こんにちは。私はN社のものでして、本日新しく開発された商品を持ってまいりました」
「あ、すいません。少し待っていただいてもよろしいですか?すぐ戻りますので」
「勿論です」
1分ほど待つとドアが開いた。
だが何か持ってきた様子はない。
(何が変わったんだ?)
そう訝しみながら商品を取り出すために下を向いた。
その時。客の手がちらっと見えた。
(職人の手?)
何だか少し嫌な予感がしてきた。
だが気にしてはいけない。話の流れを止めるな。
「この商品はこういう製品で‥‥‥」
「なるほど。なら私には間に合っていますね」
「いや、待って下さいまだありますよ?実はこの機能もついてるんです‥‥‥」
「‥‥‥この機能で全てですか?なら私は要りません」
嫌な予感が的中した。暖簾に腕押しとはまさにこのことだろう。
何を言っても、客は淀みのない動作で首を振り、一切の隙を見せずに扉の隙間を狭めていく。その洗練された拒絶の所作は、完璧な「断りの技術」だった。
何を言っても上手くかわされてしまう。
この客だけではない。ドアを開けたすべての客が同じような調子で断ってくる。
(何故だ。こんなにも断られたらそれは業績も振るわぬわけだ)
だが一つだけこんなにも断られる理由を思いついていた。
違うことを祈りながらフリマアプリを開いた。
『職人の手』と検索する。
直ぐに大量の商品が出てきた。
普段は全く見ない商品説明欄を見た。
「ほぼ新品です。
迷惑な訪問販売、宗教勧誘、TVの受信料の集金を回避する機能付き。
二度とインターフォンにおびえる必要はありません。」
私は膝から崩れ落ちた。
こんなものが出回ってしまったら、皆商売上がったりだ。
新商品『職人の手』 ネオローレ @neoro-re
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