愛されなくても尽くします♡

tokky

第1話

 ──神殿が大騒ぎになった日、私はいつも通り冷静だった。


 レッドに選ばれたのは、どこの家名も持たない平民の少年。

 正路まさみち。名だけの存在。けれど、なぜか“音無の笛”に選ばれた。


 白百合姫様は泣き崩れ、神官殿は顔色を失い、神殿中がざわついていた。


 ……まあ、私はブルーなので。こういう混乱には慣れている。


 しかし、沙露姫サロメの事件の際の白百合姫様の言葉、


「あなたがまだ、物心つかない時代に、混沌と混ざり合う空間は膨張と収縮を繰り返しては音無城の世界の人びとがこちらに流されてきたり、その反対もありました。あなたはそのときに流れ着いてきた音無城のお子……笛は城に伝わる宝でした。」


 というのは、あまりにも酷いと思ったわ。平民の子で名字の無い正路まさみちとして育ったのに、突然、別世界で双子の妹に会って、次元を閉じる笛を持ち帰って、笛を吹いたので二度と妹に会えないなんて!


 私たちは自分たちを「特別」だと思っていたわ。神に仕える身だと信じていたから。

 平民の正路がレッドに選ばれたとき、なんだか悔しかった。選ばれし戦士は名字も無いのにって。

 でも、私が間違えていた。正路は音無のお城で、幸せに育つはずだったの。


 どうやら、この世界は何層にも分かれていたのね。あれから図書館でいろいろ読み直してみたのだけれど、自分の欲にまみれると特別な力が歪んで世界を飲み込もうとするみたい。

 私たちは神殿で、授かった力だけで戦っていただけ。それも神殿の結界の中だけで。自分の努力や正義感では無かった。


 少し落ち込んでしまうわ。


 正路はどうしていつもあんなに明るいのかしら。一番の悲劇を背負っているのに。

 少しくらい、私に甘えてもいいじゃ無いの。私より背が低いんだからっ


 そうよ。正路は小さいのだから、私が守らないと。


 私たちは皆、亡き神官のすぐる様に恋していた。例外は雪花ホワイトに恋している双葉だけなの。どうしてあんなに尽くせるのかしら。白百合姫様は神官を愛していた。そしてその妹である雪花も傑様を。


 白百合姫様を庇って傑様は犠牲に……

 正路が笛を吹いた瞬間、サロメは大人の姿から子どもになりかけて砂となったの。

 正路の妹君も、まだ小さい女の子だって聞いたわ。


 それが気になって、神殿の古文書を片っ端から読み漁った。神官が神の媒体と成り、戦士に力を与える。そのことについては詳しく記録されていたわ。


 では力をくださる神様はどこにいらっしゃるの?

 白百合姫様も神の力をくださるけれど、どうして男性の神官が必要なのかしら。

 それは何処にも記録されていなかったの。


 何か大切な真実は隠されているのでは無いかしら。これからどうするの。神官がいない。あの素敵な傑様に代わる神官がいるはずない。そう思うと、鈍なことをしても知りたいと思う。止まらないのよ。あ、正路が来た。正路ぃぃぃ、そっちは片付いたのかしらぁ。えっ、こっちはまだよ。(古文書を探して余計に散らかったことは黙っておくの)

 軽やかに走ってくるなあ。あっ、転んだ。相変わらずドジね。ああああ、古文書の切れ端で滑ったみたい。大切な資料なのに……。これ以上破れていないと良いけど。


 正路は、しょうが無いなあ、なんで俺より紙切れの心配するんだよ!と拗ねてみせる。ごめんね、今貴方のことを調べていたのよ、とは言えない。音無の笛は何処に保管されているのかしら。き、気の毒すぎて聞けない……


 慌てて紙を熱心に伸ばす正路を見つめていると、私は愛しいと思ったの。まさか、それがあんなことになるとは……その時は考えてもいなかった。


 二人で書類を纏めていた。昔のものは厚めの紙なのだけど、新しいほど薄くなるの。正路は厚めの紙、私は薄紙と手分けした。でも、纏めても、時折フワッと飛んでゆく。紙質のせいだと思うわ。

 そしたらその紙が立派な水盤の上に落ちてしまった。大変だ、すぐ拾い上げようとしたとき、一瞬、水鏡に子ども姿のサロメを見えた気がした。

 千早ちはや……あの子が幼かった頃の面影があった。紙を持ち上げてもっと見ようとしたけれど、紙の落ちた水面が波打つだけだった。


 今のは?何なのかしら……思わず口に出してしまった。元気な子どもがなになにぃ、なんなの藍ちゃあん、と変な呼び方で私の側に駆けてきた。

 あれれ、これ音無姫のところにあった水盤と同じだ。こっちにもあるんだ。姫は元気かなあ。と私に話し掛ける。

(私に聞いてわかることかしら、もう)

 ねぇ、正路はどうやって音無城へ行ったの?思い切って聞いてみる。

 それならね、小百合姫様に頼まれて……ありゃ…なんだろう。あんまり思い出せない。

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