手と手を合わせてカンチョー
七渕ハチ
とある学園祭にて
高校に入って初めての体育祭が行われた。折りたたみの椅子が一部に使用され、座りにくそうにした女子生徒が立ち上がると、尻が嵌まり抜けなくなっていた。
周りにからかわれて自身も笑うのは、同じクラスの志井出さんだ。その日から、彼女の大きなお尻が気になり目で追うようになった。
不意の事故で接触できないか近くをうろついても、そんなラッキーは起こらず肩を落とす。合法的に振れる手段を考えるが、そんな都合の良いシチュエーションはなかった。
しかし、ハロウィンの翌日に開かれる文化祭を前に思いつく。おまじないやジンクスに可能性を見出した。
イベントで男女が一緒に何かを行った結果結ばれる、なんてお約束は高校生ならきっと興味を惹かれる。欲しいのは尻にまつわる内容だが、当然存在するわけもなくでっちあげる必要があった。
直接触るのはセクハラが過ぎる。誤魔化せる範囲の冗談めいた行為……カンチョーでいけるか?
あの巨尻に指を挟まれる幸せを一度想像すると、ぜひ経験したくなる。ただ、モブ生徒Aが謎のジンクスを触れ回っても無視されて終わり。文化祭という舞台を最大限に利用すべきだ。
個人で動くには廃部状態の部活が打ってつけで、調べてみるとオカルト部が当てはまる。怪しさも信憑性につながった。
早速、先生に相談したところ同好会として復活を許される。あとは話題性とインパクト作りだ。
休日になって近所の団地へ向かう。三階の一室でインターホンを鳴らし、返事がなかったのでドアノブを回す。鍵は開いており無断で入ると独特のにおいがした。
奥の部屋には不気味な彫刻が置かれて、周りには工具や石の破片、薬品などが散らかる。そこで汚れた作業着のまま寝こける女性の身体を揺らす。
「起きてください」
「んー……あ?」
寝ぼけた顔でこちらを見るのは美術系の大学に籍を置く、やさぐれたお姉さんだ。ここはアトリエ兼住まいで通い慣れていた。
「君か。今日、バイト頼んだっけ?」
「いえ、別件です」
普段は彫刻用のヌードモデル役でお小遣いをもらっている。妙な頼みを聞いてくれるのは、この人しかいない。
「カンチョーする姿を撮らせてください」
「うん、いいよ」
あくびしながらの適当な承諾は期待通りだ。大概な変人だった。
「学生服ってあります? 同じ高校でしたよね」
「あー、資料用に持ってきてたっけ?」
理由も聞かずに別の散らかり部屋に行き、一緒にクローゼットと押し入れを探す。ナースやバニーガールの衣装は普段着として使うのを見た。いわゆるアーティストのクセありに受け止めるが。
「下着を色んな場所に紛れ込ますのは、やめてください」
「失敬。片付けのバイトする?」
「今度手伝います。制服ありましたよ」
「着替える」
目の前で服を脱ぎだすため部屋の外で待つ。羞恥心すらどこかへ忘れたらしい。
「どうやって撮る?」
「全身を写したいです。俺はカンチョー役に回るんで、自撮りお願いします」
「んじゃ、鏡越しだな」
制服姿のお姉さんは現役高校生で十分通用する。起きがけの気だるさはミステリアスさを生み、モデルにぴったりだった。
とりあえず、スタンドミラーを綺麗な廊下に運ぶ。これで余計な物は写らない。
「いつでもいいぞ」
「では失礼……」
手と手を合わせて、自分は範囲外になるよう腕を伸ばす。スカートに隠れたお尻の隙間へ優しくカンチョーだ。志井出さんよりも明らかにサイズは小さいけど、謎の背徳感があった。
「うん、こんなもんか?」
「完璧です」
スマホで撮影した画像を見せられて頷く。この出来なら好奇心を刺激されるだろう。
「まだまだいけるな」
お姉さんはスタンドミラーの前で何度もポーズを取る。久々の格好に興が乗っていた。
「このまま一緒に飯行くか」
「ごちそうさまです」
駅前のラーメン屋で腹を満たして分かれたあとは、家で画像の編集に勤しむ。彼氏ができましたの文言を加え、裏には文化祭でカンチョーする男女は結ばれるとのジンクス説明に魔法陣でそれっぽさを演出だ。チラシでばら撒けば話題になるはず。両面印刷の手間も巨尻を思うと苦ではなかった。
下準備が済んだら実行あるのみ。ハロウィンの日、自由にお取りくださいと各所にチラシスタンドを設置した。オカルト部の出し物と明記で撤去対策だ。さらに、クラスのお調子者へチラシを直接渡し広まることを祈った。
そして、翌日の文化祭本番。屋台が並ぶ賑やかな通りで男子グループが背中を向けて尻を構え、カンチョー待ちの列を作っていた。
「何あれ?」
「SNS見てみなよ」
どうやら、誰かがチラシをSNSに上げたものが軽くバズっているようだ。予期せぬ広まり方に勝ちを確信した。
女子がキャーキャーと盛り上がって男子の尻にけしかけあうのを眺め、自分はクラスの出し物、喫茶店の裏方仕事に赴く。休憩時間が正念場だな。
教室内は中々の繁盛ぶりで、衝立に隠れて飲み物を忙しく補充する。その最中、メイド服を着た志井出さんがお盆を抱えてやってきた。
注文の確認に考え込む様子は隙だらけだ。ちょうど他のクラスメイトがいないし。シフトが一緒なのは分かってたけど、まさか二人っきりのタイミングが訪れるなんて。
志井出さんが友だちと文化祭を回るなら、少々ハードルが高くなる。今を逃せばノーチャンスかもと覚悟を決めた。
静かに背中へ回ってしゃがむ。待ちに待った瞬間で心臓がうるさく鼓動した。手と手を合わせて祈りを捧げ、大きく膨らむスカートへ優しくカンチョーする。
「えっ……あ、え?」
これが本物かという幸せも、志井出さんがすぐに振り返って消えてしまう。
「好きです。付き合ってください」
「あの……ご、ごめんなさい」
玉砕とはこのこと。さすがに、ねつ造のジンクスでは効果がなかった。
「ちなみに、わたしのどこが……?」
「笑顔とお尻が大きいところ」
「む、お尻は気にしてるんだけど」
本人の地雷も人によっては助かるんだと力説したかったが、他のクラスメイトが来て話は終わる。休憩時間もふらふら一人で彷徨い、カンチョー汚染を招いた文化祭は幕を閉じた。
しかし、後日に志井出さんから話しかけられる。オカルト部の存在を知ったらしく、お尻を小さくするおまじないを求められた。次は黒魔術の開発を頑張ろう。
一方、SNSでバズりを見せたお姉さんはちゃっかり波に乗ったようで。カンチョーを構える手だけの彫刻を作り話題になった。
どこぞの美術館で体験型に展示し、自らカンチョーを受けるお客さんの写真が何枚も投稿される。タイトルは手と手を合わせてカンチョーだった。
世の中、何が流行るか分からないものだ。
手と手を合わせてカンチョー 七渕ハチ @hasegawa_helm
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