『理想の相合い傘』がしたい笹倉さん。僕にはよくわからない。

醍醐兎乙

『相棒』と『ベストフレンド』

『女の子』って難しい。


 母曰く、「女性は繊細で強か」

 妹曰く、「女子はみんな、誰かのお姫様なんだよ」


 サンプルが少なすぎるせいなのか、全く意味がわからない。

 高校生の僕、武元陸にとって、不思議すぎる生き物、それが『女の子』だ。


 だから今、二人っきりの部室内で、心配になるくらい顔を赤く染めている笹倉さんが、何に怒っているのか、僕にはわからない。


 笹倉美世さん。

 彼女は僕と同じ文芸部に所属し、同じ学年の高校二年生。

 幽霊部員の多い中、教師たちから部室の主として認められている優等生。

 長い黒髪を三つ編みにし、少し太い黒フレームの伊達メガネをかけ、ブックカバーを掛けた文庫本を常備している彼女に、聞いてみたことがある。

「笹倉さんの見た目、文学少女すぎない?」と。

 ちなみに、そのときの返答は「学校でコスプレするの、だいぶ楽しい」とのことだった。


 そんな笹倉さんが、今、かつてないほど怒っている。


 考えてもわからないことは、素直に聞くのが一番。

 なので、床に正座を強要されている僕は、仁王立ちの赤面激怒コスプレ少女に聞いてみた。


「笹倉さんは、なにをそんなに怒っているんだ?」

「武元くんが! 私の! 初めての相合い傘を! 雑に奪ったからでしょうが!!」


 やっぱり、『女の子』ってよくわからない。

 僕は、鼻息荒いコスプレ文学少女に投げ捨てられた、自分の折りたたみ傘を眺めた。




 事の始まりは、数分前。

 部室でニヤニヤしながら文庫本のページをめくっていた笹倉さんの発言。


「相合い傘って、ベタだけどいいわ〜」


 繕う気のない彼女のニヤケ顔は、最初は少し気味が悪かったが、見慣れた今では、安心感すら覚える。

 こういうときの笹倉さんは、返事を求めているわけではなく、完全な独り言。

 むしろ、この独り言に反応すると、コスプレ文学少女は、眉間に深い溝を作り、目尻を釣り上げる。

 何度か経験したが、読書を邪魔したときの笹倉さんは、とても怖い。


 このときも、自分が読んでいる本に、無言で意識を戻すつもりだった。

 視界に入った、自分の鞄を見るまでは。


 僕は、鞄の中に折りたたみ傘を常備している。

 この折りたたみ傘は、これまでの高校生活で何度もお世話になった、いわば僕の相棒。


 そして、ちらりと笹倉さんに視線を向ける。 

 笹倉さんには、いつも本当にお世話になっている。

 具体的には、彼女を怒らせる僕の行動、言動を、いつもなんだかんだ許してもらっている。

 一年の時から同じクラス、同じ部活で、長い時間をともにした、いわば僕のベストフレンド。


 僕の直感が囁く。


(これは恩返しのチャンスなのでは?)


 僕は、こっそりと折りたたみ傘を鞄から取り出し、静かに広げ、笹倉さんの隣りにさり気なく座り、そっと僕たちの頭上に傘を被せた。


 結果。

 僕の相棒は、怒れるベストフレンドの手によって、投げ捨てられたというわけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る