【短編】お嬢様がこっそり練習していらっしゃいます。

翠雨

第1話

「エマ様~?」

「あぁ、ガーネさん!」


 あら? いらっしゃいました。


 エマ様は慌てた様子で立ち上がって、スカートを手で払っていらっしゃいます。


 少し、申し訳ない気もしてきました。


 エマ様はこんな夜だとしても、キッチンや図書室、弟のバサル様の部屋にいることが多くて、どうせいらっしゃらないだろうとノックを待たずに扉を開けてしまったんです。


 でも、これくらいで怒るような方ではございません。彼女はとても優しいのです。


 エマ様は魂だけでニポンという世界からやってきて、お嬢様の中に入ってしまわれました。元のお嬢様の魂は……、まぁ考えないでおきましょう。


 私は、今のエマ様が大好きですから。


「今、呼びに行こうと思っていたんですよ。バサルを呼んできますね」


 なぜ自分で行こうとするのですか!?


「私が行ってきます! なにか、計画されているんですよね? そちらの準備をお願いします」


 エマ様の近くには、なにか大きなものがありました。庭師に手伝ってもらって、なにか作っているなと思っておりましたが、あれだったんですね。


 バサル様を呼びに行かなければ!それにしても、エマ様は何をなさるつもりでしょうか? 白い四角いものは何に使うのでしょうか?


 首をかしげながら、バサル様の部屋に向かいました。ノックをすると、バサル様の従者が顔を出します。


「エマ様が、バサル様を呼んでいらっしゃいます!」

「待ってたんだ! 何か面白いことしてるって言うから!」

 私が最後まで言い終わる前に、バサル様は飛び跳ねてから部屋から飛び出していらっしゃいました。



 さすが、エマ様です。こんな夜遅くにバサル様を呼び出すのですから、しっかり予告なさっていたのですね。


「姉様~。何してんだよ~!」


 先に行ってしまったバサル様が大声を出していらっしゃいます。


 私も気になって、早足になってしまいます。


 部屋の中に入ると、薄暗くてビックリしてしまいました。しかし、理由はすぐにわかりました。部屋のあちらこちらに配置されているランプを一つのところに集めていらっしゃるからですね。四角い白い物の後ろにすべて置かれています。


 四角いものは、木枠に布を張ってあるだけのものでした。その布が後ろから照らされて、明るくなっています。


「じゃあ、そこに座ってね」


 ソファーに座ると、ちょうどその白い布が見やすい位置になっています。


 「ほらほら」と言われて、私もバサル様の隣に腰かけます。エマ様は、その四角いものの後ろに座りました。


 エマ様! 従者をソファーに座らせて、自分は床に座るのですか!?


 私が腰を上げると、「ガーネさん、何をしているかは秘密です!」と言われてしまいました。


 仕掛けを覗きに行こうと思ったわけではないんですけど……。


「そうだぞ。俺だって気になっているんだから、抜け駆けはなしだぞ!」

 バサル様にまでお叱りを受けてしまいました。


 仕掛けを盗み見たかったわけではないんですけど。


「じゃあ、始めるね」


 エマ様は手を伸ばしました。


 あれ?


 白い布に影が移りました。


 鳥に見えます。


「わぁ~! 鳥か? カラスだな!」


 えっ、鳩かと思ったんですけど。


「どうなってるんだ?」


 鳥の影は、翼をゆっくりを動かしています。


「こうか?」

 バサル様は両手をくっつけて、同じように動かして見せます。親指が頭に見えていると思うんですけど、バサル様……、頭が二つありますよ。


「じゃあ、これは?」

「カニだな!」


 4本指がカニの足になっています。親指が目になっているんですね。これはバサル様もうまくできていました。


「次は、これね」


 えっ……。どう見ても、耳の垂れた大型犬なんですけど……。


 どこがどうなって、あの影になっているのですか?


「犬だ! でも、どうやって作ってるんだ?」


 バサル様が、手を組み替えて色々な形を試しています。


「さては姉様! 手が3本あるな!」


 さすがにそれはないと思いますよ。


「あっ、なんか道具を使ってるだろ!?」


 私もそう思います!


 バサル様は白い布の後ろを覗き込みました。エマ様は両手をひらひらしています。


「えっ? 姉様、ちょっと立ってくれ!」


 バサル様は白い布の後ろを探して、床を探して、エマ様のポケットまで探したのですが、道具を見つけることはできませんでした。


「姉様! 教えるなよ!」


 バサル様は自分で考えたいようです。私は教えて欲しいのですが、聞いてしまってはバサル様に怒られてしまいそうです。


 エマ様がランプを移動して、壁に手の影を映しています。今回は鳥でした。


「こうやったら、ランプだけで遊べるよ」

「なんだよ。頭は親指をグリンってするのか。犬は絶対に教えるなよ!」


 バサル様はその場で練習を始めました。結局、彼の従者が呼びにくるまで練習していて、私はどうやったら大型犬の影ができるのかエマ様に聞く機会を失ってしまったのです。


 本当に、あれはどうなっていたのでしょう?

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【短編】お嬢様がこっそり練習していらっしゃいます。 翠雨 @suiu11

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