【カクヨムコン11短編】その手に掛ける
肥前ロンズ@「おはよう、サンテ」発売中
第1話
私には好きな人がいる。
幼なじみで、親友で、そして今、私の恋人でもある。
昔からずっと一緒に登下校していたのに、『恋人』という名前がついただけで世界が違って見える。
マフラーでたゆんだ、フワフワの髪とか。寒さで、亀みたいに首を竦めてる所とか。鼻を赤くして両手に温かいお茶のペットボトルを握りしめては頬に当てている所とか。あの子の背景にある、葉の落ちた殺風景な街路樹とか。
どれも映画のワンシーンのように見えて、私の心を揺らす。
彼女は私を見つけて、笑みを浮かべた。
「おはよう、マユミちゃん」
「お、おはようチヅル……ごめん、遅れた」
ハアハアと膝に手を置いて息を整える。
「そんなに焦って来ることないのに」
あはは、と声を立ててチヅルが言う。
チヅルはいつも私より早く来る。こんな寒い時期に、長いこと外で待たせたくなかった。
こてん、とチヅルが首を傾げると、ふわふわの髪がマフラーから零れる。
――やは肌のあつき血汐にふれも見で。
与謝野晶子の短歌を思い出す。ふっくらした頬を赤くして花のように笑う彼女を見ると、触れたくてたまらない。
この世界で誰よりも魅力的な、私の彼女。
「じゃあ行こっか」
チヅルがそう言ったのをきっかけに、私たちは歩き出す。
寒さを避けるように伸びたコートの袖から、指先が見えた。
コツンとぶつけると、指先が絡んできた。そのまま手を繋いで歩く。
オシャレに疎い私とは違い、チヅルの手は爪半月まで薄いピンクのネイルでつやつやになっていて、薬指の爪に花の飾りをつけていた。
「あは、マユミちゃん冷たいね。すごい息切らしてたのに」
「中々手って暖かくならなくない?」
「わかるー」
どんどん、チヅルの指先から熱が移っていく。頬から耳にかけての血管がバクバク言い始めて熱くなる。
彼女といられて、本当に幸せだ。
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