すべてが彼の翼だった

春野 一輝

英雄の帰還

 一対の赤い翼。

 曲がることなど知らない一直線の飛行。

 赤い竜が雲を突っ切って、空に雲を残して飛んでいく。

 それを目撃した人々は指さして驚く、その中に英雄の友がいた。

 友は言う。


「あの竜は、間違いなく英雄の愛機だ」


 と。

 そう、その赤い竜はドラゴンの革を使った空飛ぶ竜機と呼ばれる機械。

 英雄の友は青い竜機に乗り、赤い竜機に接近する。

 恐れを知らぬとてつもない速さの飛行についていく。

 ドラゴンの皮膚で出来た甲冑は、空からの光を受けて光沢を放っていた。

 そのエロティックなほど美しい赤色に、雲が映り込んでいるのが見えた。

 友は叫ぶ。

「本当に帰って来たのか? 本当にお前なのか!」

 赤い竜機は青い竜機と共に、怒涛の如く舞い上がった。

 雲を貫き、長い線の雲を引きながら。宇宙そらの果てまで飛び上がろうと。

 フッと、力が抜けて赤い竜機は落ちた。


 それと同時に、青い竜機も力を失ったように落っこちる。

 生命力を失った鳥のように。

 両機は共に回りながら地面へと真っ直ぐ落ちて行く。地面スレスレを木々をなぎ倒し、力強くまた上に羽ばたいた。

 強く、強く、剛く。

「この力強さ。間違いない! お前だ!」

 友が喜ぶ。

 更に一緒に旋回しながら、雲を三度も貫いて、楽しく回って遊ぶ。

「帰って来た。ずっとお前を待っていた」

 思わず涙を流す。


 赤い竜機は高く、高く、更に雲を貫いて高く飛んでいく。

 青い竜機も負けずと赤い竜機について行く。

 高く、高く、高く。宇宙そらへ。


 深淵が覗いてきそうなほど、宇宙そらの中を飛ぶ二機。


 月へとたどり着いた時。

 赤い竜機が止まる。

 青い友も、傍に止まり。中から出る。

 そして、まだ出てきていない、赤い竜機のコックピットを眺めていた。

 ふわり、と中から女性が出て来る。


 長い髪に、角が生え、尻尾がある。


「お前……は」

 友は知っていた。

 彼女は英雄を導いた竜の祖先。

 竜の姫だ。


「ありがとう。彼の事を覚えてくれていて」

 月の上で彼女は言う。

「忘れるものか。あの技、あの高さ。すべてが彼の翼だった」

 拳を握り締める友へ、彼女は空から見える竜の形の大地を指さした。

宇宙そらから大地が見える。彼を呼ぶ人々の歌」

 空気を冷やすような冷たい声なのに、言葉に暖かさを感じる。

「彼は歴史になった。これでもう永遠に忘れ去られることは無いだろう」

 振り向くと、大地に人々の住む人々の英雄の詩が聞こえてくる。

 歌から、暖かく英雄を思う生命力を感じる。

「お前は、彼を感じたかったんだな」

 

 姫は頷いた。

「私なら、きっと上手なパイロットになれると、彼は言ったの」

 彼女の目から一粒の涙が浮かぶ。

 英雄を待ちたかったもの同士。一人は恋、一人は友情。


 彼はそれだけを聞いて、頷き返した。

 そして帰った。青き竜で大地へと。


 去った英雄の友。

 姫は彼の背中を見送る。

 そして、一人、月の上に彼の愛機と共で竜の大地を見守る。

 静かに、英雄の詩を歌いながら。

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すべてが彼の翼だった 春野 一輝 @harukazu

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