悪役中ボスに転生したら、ヒロインの父殺害シーンから始まった

みのせ

悪役中ボスに転生したら、ヒロインの父殺害シーンから始まった

月のない森に、鉄のぶつかる音だけが響いていた。


闇の中で切り結ぶ二つの影。

一人は角刈りの大男。

もう一人は黒いロングコートの貴族風の男。


火花が散り、魔法が弾け、

夜の静寂が何度も破られる。


やがて空が白み始めた頃――

大男の一太刀が貴族風の男の肩口を裂いた。


「終わりだ、ギィル……大人しく負けを認めろ」


「はっ、何が終わりだ……俺はまだ死んじゃいねぇ!」


「ならばその首、貰い受ける!」


大男が剣を振り上げた、その瞬間。


ギィイ――。


小屋の扉が開き、

寝ぼけ眼の少女が顔を出した。


「……お父さん、なんの音……?」


「いかん!リーナ、来るな!」


「はっ、弱点みっけ!」


貴族風の男が少女へ向けて剣を投げた。


ヒュン――


ブシュッ。


「ケガは……ないな、リーナ」


「え? お父……さん?」


大男は娘を庇い、背中から心臓を貫かれていた。


「……頼む、ギィル……娘だけは……」


「ククク……さぁて、どうしようか……な……っ!」


大男から剣を引き抜いたその瞬間、

頭の奥で何かが弾けた。


視界が歪み、

記憶が流れ込んでくる。


(……知ってる。これ、ゲームのOPムービーだ)


ヒロインの父が殺され、

復讐に目覚める“あのシーン”。


(なんで……オレがここに……?)


自分の姿を見る。


黒コート。

血のついた剣。

ギィル・ブラッド。


(……転生? よりによってこのタイミング!?)


ゲームではこの後、

この少女――リーナが復讐に目覚め、10年後ギィルを――オレを殺す。

物語中盤の山場だ。


(でも今なら……先に殺せば……)


ククク……ヤるか。


そう思って少女に歩み寄ると――


「おじさん! お父さんが動かないの!

 お願い、お父さんを助けて!」


純粋な目で縋ってくる。


ククク……

いや、殺せるかよ!畜生!


「あー……お嬢ちゃん。言いにくいんだが……お父さんはもう助からないんだ」


「お父さん、死んじゃったの……なんで?」


グサッ。


少女の疑問が胸に刺さる。


「……オレが殺したんだ。

 おじさんとお父さんは敵同士でね。

 どっちかが死ぬしかなかったんだ」


「おじさん、悪い人なの?」


サクッ。


また刺さる。


「あー……そうだよ。悪い人なんだよ」


胸が痛い。

でも、これが一番いい。

ゲーム通りに進めば、

この子は復讐を果たし、主人公と結ばれる。


(すまんなギィル。今世は諦めろ)


「んーん。おじさんは悪い人じゃないよ」


「……なんで?」


「お父さんがね、

 “悪い人は目が濁ってる”って言ってたの。

 でもおじさんの目、すごく綺麗だよ」


ブワッ。


(何この子……天使か?)


ズタズタの心に染みる。


「あー……そうかもね。

 じゃあ、お父さんのお墓、一緒に作ろうか」


「……うん」


二人で墓を作り終えた頃、

少女はぽつりと言った。


「リーナ、お父さんのそばにいる。

 ここに残る……」


「……そうか。じゃあ、おじさんは帰るよ。元気でな」


(はぁ……ここで殺せないんじゃ、復讐を受け入れるしかないか)


歩きながら、胸の奥がじわじわ痛む。


「……いやー、あの子は殺せねぇよ。

 原作のギィルも……こんな気持ちだったんだろうか」


そして気づく。


(……どこに帰ればいいんだ?)

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悪役中ボスに転生したら、ヒロインの父殺害シーンから始まった みのせ @miminose

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