第一章 フェイスン・ロット6

 M.M.組合本部、応接間。石造りのテーブルの上には瓶詰めになったリカーシブの核が置かれている。ドロシーの話によると土壁は見事に突破されていてその奥には何匹かのリカーシブがおり、中身の詰まった幾つもの房状の物体が壁面全体を覆うように張り付いていたという。

「至急、対策チームを編成して対処に充たるべきです」

「そうですか。すべてノーラにお任せしてもよろしいのですか」

「えぇ、モチロン。なんてったってプロフェッショナルですから!」

「それは良かった。この後は、いかがされるおつもりか」

 俺の視線にサンドラの視線が重なった。なんか様子違くない? そう言いたげな目だ。俺もそう思う。上司だからだろうか。態度は相変わらずだが動揺しているのか、声が詰まったりひっくり返ったりしている。これはもしかすると。

「はい、街に宿を取ってありますので」

「お帰りは何時になりますかな」

「明日の朝には。対策チームとの引継ぎの後に発ちます」

「あい、わかった。それまでごゆっくりなされると良い」

「はい、では対策班の到着をお待ちください」

 俺達は頭を下げた、これで報告完了。じいが扉を開いて退出を促す。ドロシーを先頭に俺達は部屋を出ようとした。

「おい、お前。確か……ロイと言ったか、少し残れ」

「え、あ、はい」

 呼び止められなかった二人はじいの案内で応接間から出て行く。サンドラと目が合う。その意は「任せたぞ」だろう。シェストと二人、俺は応接間に残った。

「掛けたまえ…………あ、あの、あのお方は、メッセージの君だろう! なんと言うのだ! 名前だけでも教えてくれ。いや、教えてください」

 堰を切ったようにまくしたてる。来たっ! 俺は心の中でガッツポーズをした。しかし交渉するにはまだ早い。泳ごう。

「あー、えっと、あのお方というのはオレンジの髪の?」

「そそそ、そうだ! あの優雅で、可憐で、艶やかな声の……!」

「背が高くて、凛々しくて、陽気な?」

 シェストは首がもげてしまいそうなほどに首を縦に振った。公開情報だし名前くらいなら良いだろう。

「彼女はドロシー、俺達の上司でカミキ・ドロシーと言います」

「極東の出身か。カミキ……はて?」

「どうかしました?」

 シェストは記憶をたどるように視線をあさってに向けて俺の目を真っ直ぐ見据えた。

「いや、ボク達の間に隠し事は無しにしよう――確かD-ナイルズの一派の頭がカミキといった名をしていたと記憶している」

 D-ナイルズ。メテオーラを忌み嫌う集団。メテオーラ能力を人類の進化だと宣うルーメン・ルックスと対になるようなテロ組織だ。俺は少し気になった。

「だからどうというわけではないのだが。その、ピクチャなどは……持っていないだろうか」

「ピクチャ、あったかな」

 ピクチャか、静止画像のデータ。あるにはある。本来なら許可なく流出するのは気が咎めるのだがしかし、俺やサンドラが苦労した原因はドロシーにある。いわばこれはドロシーの撒いた種なのだ。別に構わんだろう。

「時にロイよ、何か必要な物はないか?」

「では、オダカ宛に――」


 M.M.組合本部の正門で待っていた二人と合流した。上手くいったか、そう聞きた気な視線を向けられる。それに対して俺は親指を立てて答えた。もはや二人の間に言葉は要らなかった。手は尽くした、後はなるようになれだ。

「二人とも仲がいいわね、アイコンタクトで意思の疎通ができるなんて。良いペアじゃない、ねぇ」

「そそそっ、そうかなぁ!?」

 サンドラはぎくりと肩を浮かす。俺がフォローせねばなるまい。

「そりゃまぁ今回は特に仲が深まりました。死ぬかと思いましたから」

「あー、可愛いやつー、まったくー」

「でも感謝もしています。おかげで経験を積むことが出来ました」

「助けてくれたこともね」

「ホント、間に合ってよかったよ。お腹空いたでしょ、晩ご飯何食べようか、やっぱりお肉?」

「私、美味しいお店知ってるよ」

 こうしてフェイスン・ロットでの俺たちの任務は幕を閉じた。水路のモルフィックも明日には掃討されることだろう。くすんだ明かりの降り注ぐ地上で煌びやかな街が笑っている。

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