黄金の魔女様、余命3日
@Beta_Kamopen
第1話
古来から世界には不思議な力を持つとされている者たちが誕生していた。
宙に浮いたり、一切の火傷を負わずに火事の現場から子供を助けたり、人体から電気を生成したりと、科学的に解明できない超常的な力を持つ者たち。
彼らは揃いも揃ってこう話していた。
人には見えない文字が見える、と。
言霊。
言葉に宿る神秘的な力のことで、発した言葉通りの結果が現実になると信じられてきた日本古来の思想・信仰とされていた。
人に見えない漢字を用いて、呪文を扱う者たちの存在。
彼らの存在は、言霊が比喩表現などではなく、実在する物だという証明になった。
イギルス、場所はロンドゥル。
三ツ星ホテルのスイートルーム、その部屋の浴槽で、プロのマッサージを受けてるかのような錯覚に陥るジャグジーを堪能している少女がいた。
それぞれの位置から別々の強さの水を吹き出させることで、体のそれぞれの部位に、一番気持ちいい威力の水が当たる。
水に当たっているだけで絶頂できるのでは無いだろうか、彼女はそう考えていた。
どころではない。
本当に絶頂しかけていた。
浴槽に対し、体をうつ伏せにする事で、彼女は自身の恥部でジャグジーを堪能していた。
「んん…ん………ん〜」
(コレヤバ♡病みつきになっちゃうよ〜♡)
「おっ♡………おっ♡おっ♡」
体が温まったからなのか、はたまた別の要因か、紅潮した顔の彼女はそろそろナニかの終わりを迎えようとしていた。
(あ〜♡…来ちゃう来ちゃう…そろそろ来ちゃう〜♡)
彼女の体をビクンビクン、とくねらせる特大な刺激が彼女の体に迫る。
彼女の絶頂まで3,2,1…。
「んぁ〜♡…イク…イク…これ逝っちゃ…あぁ〜♡イク♡イク♡イク♡イク♡イグ♡イグ♡イグイグイグイグ‼︎これイグ!これイグ!いやイタイタイタイタイタイタイタイタイ‼︎」
彼女は絶頂した。
窓ガラスを突き破った稲妻は、浴槽の水を通して彼女の全身を駆け巡った。
白目を剥き、気絶するほどの刺激。
プシュ〜、と、ほのかに焦げ臭さが香る浴室に訪れる来客。
「よっと」
「あの〜。黄金の魔女様〜?死なない程度の雷だったと思うんだけど〜…調整ミスった?」
桃色髪のスーツを着た女は、浴槽でくたばった彼女の口元に手を当てる。
「息はある。生きてるんだね。それじゃ…」
スーツの女は彼女の首にゆっくりと手を伸ばす。
そしてー。
「……んまく」
微かに聞こえた声に、スーツの女は瞳を大きくした。
瞬間ー。
まるで空気そのものが膨張したかのように、白い煙が浴室内に一気に充満した。
煙は瞬く間に広がり、0721女とスーツ姿の女を包み込んだ。
煙幕は濃く、視界を奪い、目の前の何もかもがもやの中に消えていった。
浴室のタイルや窓の輪郭すらもぼんやりとしか見えない。
スーツ姿の女は驚き、咄嗟に大きく後ずさる。
呪文の詠唱がはっきり聞こえなかった以上、ただ煙を出しただけの魔法なのか、それ以外の効果があるのか判断できなかったからだ。
「霧消波(むしょうは)」
詠唱と共にスーツの女は霧を引き裂くように右腕を振るった。
それと同時に浴室を包む煙幕が勢いよく消失する。
そこに先ほどまで湯船に浸かっていた少女の姿は無かった。
(あの雷を直接食らった状態、ものの数秒で目の前から消えるほど自力で移動できるとは思えない)
「透明解䀶(とうめいかいりょう)」
スーツの女が両手を叩き、音の波動が周囲に広がる。
そして、浴室、ホテル内の部屋をざっと見回す。
(透明化ではない…そうなると…)
「索視霛許(さくしりょうこ)」
瞳を閉じて、視界だけを高速で動かし、周りの空間情報を把握する。
近くにターゲットの女がいないか、意識を集中させ、隈なく探す。
ここから60m南南東の方角。
マンションの屋上にターゲットの女を視認する。
(見つけた…)
「流動浮遊」
自分が突き破った窓から勢いよく飛び出し、スーツの女の体はふわりと宙に浮く。
そしてターゲットの女の元まで一直線に勢いよく飛翔する。
一方、水色髪の女。
(あの意識が朦朧としてた中で、煙幕出して転移魔法まで唱えられる私、グッジョブ過ぎでしょ)自分の反射神経に感心していた。
先ほどの優雅なホテルの浴槽から一点、少し寂れたマンションの屋上を裸で寝っ転がっている状況。
(何やねんコレ…)
(1分前までの光景との落差で風邪引きそ〜)
「体調良好(たいちょうりょうこう)!」
彼女がそう叫ぶと、先ほどまで痺れていた体や全身の火傷が徐々に回復していく。
10秒くらいかけてほとんど回復した体を起こすと同時ー。
自分を襲ったスーツの女が少し先に降り立つ。
そして有無を言わさず繰り出される攻撃。
「徹渓冷線」
スーツ姿の女の指先から、水色髪の女目掛けて、氷のビームが放たれる。
「いや、服くらい着させてくれ〜!」
そう叫びつつ、水色髪の女、体術のみでビームを右にかわす。
氷のビームは水タンクにぶつかり、一瞬で氷塊を作る。
「服着衣」
何か適当に身に纏うための適当な呪文。
文字数を三文字にケチった事を女はすぐに後悔する。
水色髪の女はドン・キホーテで売られてるやっすいコスプレグッズのようなショーパンポリスの格好になる。
「はぁ⁈3文字にケチったらクソ恥ずかしい服穿かされたんですけど!」
「ハハっ。可愛らしいよ」
スーツの女は嘲笑し、次なる一手を繰り出す。
「刺突軌」
氷塊から氷柱が3本、女の足元目掛けて勢いよく伸びていく。
水色髪の女、それも反射によるジャンプで回避。
(…超人的な反射神経だな)
スーツの女は、水色髪の女の身体能力に感心しつつ、彼女の動きを見て次なる一手を考える。
反射的に避けたは良いものの、その場での跳躍であったので、着地先には伸び切った氷柱。
それの上に両足をつける事で、体はバランスを崩す。
「おあっ…ちょちょちょっ…」
体を前に後ろにくねらせ、何とか転倒せずに氷柱の上にとどまることができた。
「俊脚(しゅんきゃく)」
スーツ女の呪文詠唱。
地面を勢いよく蹴り、スーツの女は一瞬で水色髪の女の目の前まで跳躍する。
「壁塞茗珺(へきさいめいくん)」
水色髪の女の前に透明な壁が出来る。
そこにぶつけられるのはスーツ女の左脚。
壁に大きなひび割れが出来るが、壁を割り切るにはまだまだパワーが足りてない。
壁についたままの左脚、曲がった膝を伸ばす事で一度大きく後退する。
「巨蔓操務(きょまんそうむ)」
水色髪の女は透明な壁を消し去り、地面から生えた蔓を2本を敵に目掛けて伸ばす。
蔓の1本はスーツの女を押し潰すように、女の頭上を目掛けて伸びていく。
スーツの女も、水色髪の女と負けず劣らず、防御呪文を使わずに、自分の頭上を目掛けて飛んできた1本目の蔓を回避。
そして、スーツ女の回避先を読んでいたであろう位置に伸びていた2本目の蔓すらも体術のみで回避する。
女の頭上を目掛けた伸びてきた蔓は勢いよく地面に突き刺さり、下のフロアにまで伸びていったようだった。
「…火壁(かへき)」
スーツ女の目の前に一瞬、炎の壁が立ち上がる。
炎の壁は地面に刺さっている蔓に火をつけた。
いずれ2本の蔓は焦げ尽きることになるだろう。
(わぁ〜…面倒くさ〜い)
水色髪の女は目の前の敵が一筋縄ではいかない、面倒な相手である事を悟った。
(地面に刺した蔓を操れる状態にしといて、忘れた頃に地面突き破って蔓で拘束、って考えだったのに、それすら読まれてケアされた)
(私を殺したいのか拉致したいのか何なのかはわかんないけど、私をわざわざ襲ってきてる以上、容易は周到なはず…)
(このままずるずる戦いを続けたら絶対私が先に文字切れを起こす)
(逃げるが勝ち、だけど…そう易々と逃がしてくれる敵じゃないだろうなぁ…)
「ねぇ…アンタさぁ…何が目的で…」
「縛那光輪」
作戦を考えるための時間稼ぎで、水色髪の女はスーツの女に話を試みるがどうやらお話はしてくれないらしい。
スーツ女が振り翳した左腕から、4つの光輪がそれぞれ別の軌道を描き、水色髪の女目掛けて飛んでいく。
光輪の軌道をよく見て、のらり、くらり、体を捻らせ、水色髪の女は光輪を容易く回避。
「どこ狙ってんの〜?w」
余裕そうに笑みを浮かべ、相手の調子を崩そうと煽り文句を一添え。
スーツの女はそれに反応することなく、手前に突き出していた左腕を引き寄せる動作を行う。
一瞬、その動作の意味を理解できなかった水色髪の女。
その一瞬が勝負を決めた。
水色髪の女はその動きの意味を察したが、少し遅かった。
(戻ってくる!)
後ろを振り返ると、寸前に迫るさっきの光輪。
上半身を後ろに反らせることで、1本目は回避するが、2本目が左手首に命中する。
手首に命中した光輪は空間そのものに固定され、水色髪の女は空間と手錠を掛けられているような状態になる。
続いて3本目4本目も飛んでくるが、左手首が拘束された状態でも何とか体を捻り、3本目の光輪を回避。
しかし、4本目の光輪は動きの少ない左脚にぶつかり、左脚もがっちりその場に固定されてしまった。
「輪消宣久(りんしょうせんきゅう)!」
相手の出方を伺うために、正面に向き直りつつ、左手首、左脚を拘束してた光輪を呪文で取っ払う。
自由になった体で正面に向き直ったが、そこにスーツの女はいなかった。
「…ぬ!何処に⁉︎」
瞬間、後ろから羽交締めにされ口の中に手を突っ込まれる。
(まずい!)
本能がそう悟った時点で遅かった。
「針手痲(はりてま)」
スーツ女の詠唱により、口の中に刺突的な痛みが口の中、全方向に広がる。
スーツ女は口の中に突っ込んだ手からあらゆる方向に針を伸ばしていた。
言葉にならない叫びがロンドゥールの夜の街に広がる。
スーツの女は手から出した針をそのままに、水色髪の女の口から手を引っこ抜く。
ただでさえ、口内、舌などがズタズタに傷つけられたのだが、さらに唇も躊躇いなく引き裂かれる。
スーツの女は手を離し、水色髪の女はその場に膝から崩れ落ちる。
口から止めどなく溢れる鮮血、一瞬、意識が飛びかける。
「ふ〜。さてさて」
スーツの女は一仕事終え、やれやれといった感じでレフィの首を右手で掴む。
正面に首を差し出すような姿勢になったレフィの正面に、透明化を解除した小さな子が現れる。
黄緑色の髪をしたその少女は、自分の右の掌を一度見た後、その手を伸ばし、レフィの首にその掌をかける。
「…大丈夫?」
桃色髪の女は黄緑色の髪の少女を気にかける。
「…はい。問題ありません」
一度眼を閉じ、短い深呼吸をする。
そして指に力を込めながら呪文を口にする。
「参彁礼呪鏐邶」
六文字呪文。
言霊使は一度の呪文に使う文字が多ければ多いほど、強力な呪文を使える。
しかし、ほとんど多くの言霊使は五文字以上の呪文を使わない。
理由は単純。
五文字以上の呪文を詠唱すると、人体に害が出るからだ。
五文字呪文は何処かの指が一つ骨折、もしくは歯が2つほど壊れる。
六文字呪文は四股のうち、一つがなくなる。
七文字呪文は詠唱した途端、死ぬ者もいるが、生き延びた事例だと臓器がなくなっており、結局後々には亡くなってしまう。
八文字呪文はそもそも使用された際の文献が少なく、使用者がどのような顛末を辿るのか、ほとんど知られていない。
しかし、七文字呪文で臓器がなくなり死ぬのであれば八文字呪文なんぞ使用したら即死だろう。
いや、普通に死なせてもらえるかもわからない。
そんなリスクのある六文字呪文を使ってまで少女はレフィに呪いをかけた。
瞬間。
彼女の右手から紫色の光が漏れ出し、その光がみるみると明るくなっていく。
眼を開けてその光を見る事が難しいくらいの眩い光がロンドゥルの夜を眩く照らす。
レフィは首に焼けるような痛みを負い、苦しみの声がひしひしと漏れ出る。
光がみるみると弱まり、ロンドゥルに夜が戻る。
レフィの首には「72:00:00」という数字が刻まれていた。
「…おそらく成功しました。ユナさん」
「…そう。よく出来ました」
スーツの女、ユナは黄緑髪の女の頭を優しく撫でる。
少し照れくさそうに俯く少女。
その瞬間、少女の右腕が勢いよく捻れ、膨張したかと思いきや、辺り一面に彼女の右腕だった肉の欠片たちが辺りに飛び散った。
「くっ…!」
痛みに耐え、声を押し殺す少女。
ユナは腕を無くした彼女を抱きしめた。
「すまないね。損な役割を任せてしまって」
「いえ…これが私の…仕事ですから」
「…ありがとう」
そう言葉を溢し、二人は離れる。
「黄金の魔女レフィ」
「今まで強盗を働いてきて、悠々自適に暮らしていたかもしれないが、君にはこれからバリバリ働いてもらうよ」
「ぃゃ〜あ〜」
レフィは頭を地面に擦り付けた状態で力無く首を振る。
おそらく「嫌だ」と言ったのだろう。
まともに動かせる舌が無い今、彼女の声はダウン症の人間を彷彿とさせる声だった。
「君には呪いをかけた」
「幽霊文字と私の1週間分の右腕を捧げた、お手製の呪い(まじない)だよ」
「その呪いの効能は至極単純」
「3日おきに他の言霊使を殺すこと」
「それが叶わなかった場合、黄金の魔女様の全財産を使ったお葬式が開かれる」
「理解した?」
話を聞いてるのかわからないレフィにスーツの女は問いかける。
「ぃゃ〜あ〜!」
先ほどと同じ返事。
変化したのは声の大きさと怒りの感情の乗り具合。
そんなレフィを無視してユナはカルナの方に向き直る。
「よし。私が彼女の目に煙幕をかけよう」
「君は回復呪文をかけてくれ」
「了解です。それではー」
「口回櫔囧(こうかいれいけい」
「暗雲㛤鐳(あんうんらいらい)」
口回櫔囧の呪文により、徐々にレフィの舌が形成されていく。
口が完全に回復し切る前に、暗雲㛤鐳の呪文は彼女の目に黄黒い雲のようなものを纏わり付かせる。
レフィはその雲に妙な重さと独特な金属の香りを感じる。
「それじゃ、これからの活躍に期待してますよ。黄金の魔女様」
レフィの蔑称、黄金の魔女様。
スーツの女は嘲笑しつつその名を告げた。
何故黄金の髪や瞳を持たない彼女が黄金の魔女と呼ばれているのか。
それは至極単純。
あり得ないほど金にガメついからだ。
彼女は世界中を旅していた。
泊まるホテルは高級ホテル、飛行機はファーストクラス、身につけた服はハイブランド。
お金が無くなったらどうしますか?
世界各地で銀行強盗です。
マスクを被り、今まで犯した銀行は6ヶ所。
被害総額は2桁億円を超えたと言われている。
銀行強盗で稼いだお金でリッチな生活を送っている彼女。
労働とは無縁だと思っていた彼女の元に舞い降りた呪いという名のお仕事。
口内で舌を思う存分動かし、口が完全に回復したことを確認すると彼女はこう叫ぶ。
「…殺してやらぁ…!」
「野郎、ぶっ殺してやらぁ‼︎」
黄金の魔女様、余命3日 @Beta_Kamopen
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