パラリラパラディン

キリン

「第一話」盗んだバイクで走ってたら因果応報を受けたんですけど

 月明かりに照らされた夜空。山と海の境目に伸びた道路。

 エンジンがどるんどるん、バイクが猛スピードで道路を駆け走りながらそこら中に爆音を、握り締めた金属バットが地面に擦れて火花を撒き散らす。


 「イヤッホォォォォォォォイッッッ!!!」


 今回のは大当たりだ。適当に走れればいいと思っていたが、まさかあんなおっさんがこんなに上等なバイクに乗っていたとは……やれやれ、この酒田舞香の日頃の行いを、天はきちんと見てやがったようだ。


 「最ッ、高ッ!!!!」


 喧嘩で男ぶちのめすのもいいが、やっぱりコイツは格別だ。

 エンジンメーターの針が一気に跳ね上がる。法定速度なんて知ったことか、もっともっと風を感じたい、いいや最早アタシ自身が風なのだ!


 (んぁ? 曲がり角?)


 遠くに見えるガードレールとカーブミラーを見て、アタシは舌を打った。

 嫌なんだよなぁガードレール。あんなもんがあるから楽しくねぇんだ。


 (人生も人も道路も真っ直ぐだったらいいのにねぇ。あーあブレーキブレーキ)


 ぐっ、握る。……ん?

 なんか、あれ、まだ早くない? 


 「あれ、あれっ? おい、おい……おいっ!」


 強めに握る。早い。

 何度も握る。早い。……ぱきん。


 「……えっ」


 なーんか嫌な音したよな、今。

 握る。ブレーキ部分から手応えが消えてる。まるで糸がぷっつんというか、ワイヤーがチョンパと言うか、これ、まさか、まさか。……ウッソだろ、これ。


 「止ぉぉまんねぇえええええええええええええ!」


 クソッタレ、これだからおっさんが使った中古は!!!


 迫るガードレール。それでも減速せずに加速し続けるバイク。 

 

 (そうだ、エンジン!)

 

 突き刺さったキーを引っこ抜く。……エンジンは止まった。だがそれでも、加速は止まらないっ!


 「だぁあああ!!!」


 考えてみれば当たり前だ。今の今まで加速して、しかもここは坂道……いきなりエンジンを切ったとしても、坂を下っている間は加速し続ける!

 もうこうなれば手段を選んでいられない。助かりたいのであれば乗り捨てて真横に飛び込むしかない。さもなければ、このクソバイクと一緒に魚の餌になってしまう!


 「ふぅ、ふぅ……ふぅっ」


 多少の骨折とかはもう腹を括るしかない。意を決し、そのままバイクを飛び降りようとして……ガァン! 


 「へ?」


 なにかに前輪がぶち当たった。

 バイクも、それに乗っていたアタシも、地面を離れて空中へと放り出される。


 「えっ、あっ、わぁぁあああああああ!?!?!!?」


 抵抗も虚しくバイクごとダイナミック入水。叩きつけられた衝撃で全身が滅茶苦茶に痛み、それにより肺の中の空気が全部叩き出される。


 (息が……!)


 慌てて口元を押さえるが、痛む身体で地上に上がっていくことは出来ない。……それどころか、物凄い水の流れによって底へ底へと引き摺り下ろされていくじゃないか。


 ああ、嫌だ死にたくない。

 光が遠くなっていく、闇に引きずり込まれていく。


 (ちく、しょう)


 脳が回らない。

 遂に堪えきれなくなって、口を開けてしまう。水が入ってきて、なにもかもが苦しく狭まっていく。……死ぬのか、アタシ。こんなところで、まだ二十歳にもなってないのに。


 たすけて、と。

 そう叫ぶことすら出来ないまま、意識は深い水底へ落ちていった。


 

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