魔物の島の聖女様

@nojarori343

序章

━━━ 降暦1256年 晩夏 2の月


この日、聖ファルテノン王国は大きな転換を迎えた。

民衆が降王ロメル4世の圧政を下し、遂に革命を成し遂げたのだ。

聖ファルテノン王国は強大な結界に国土全体が覆われ、他国の干渉を一切許さない鉄壁の防護を誇る鎖国国家であった。しかし、その結界により齎される閉鎖的な空間は強固な王政を絶対的な物にし、民衆は重い税金と厳しい法律に永いこと苦しめられていた。


この民衆の不満は、第105代降王ロメル4世の暴力的とも言える愚かな政治により遂に爆発してしまった。民衆革命の機運は、ある農村の一揆の成功の知らせを受けて一気に高まり、偉大なる革命の指導者 "オレイア・メルヴィン"の先導の元に遂に大規模な"ファルテノン革命"が巻き起こったのだ。


諸外国との戦争に巻き込まれる危険が無い聖ファルテノン王国内の軍備は脆く、ファルテノン革命は遂に聖王宮を民衆軍が取り囲むに至る。だが、聖王宮には国を囲むものより更に強力な結界が貼られており、民衆の侵入を許さなかった。

そこで、民衆軍は王宮から外に出る一切の通路を封鎖し、兵糧攻めを行った。

とにかく広大で食糧も豊富な王宮を完全に取り囲み兵糧攻めを行うのは至難の業であったが、2年もの間、国内の動乱を納めると共に行われ続け、遂に降暦1256年、ロメル4世は毒杯を仰いで自害。降暦1251年より行われた長い革命の戦いは遂に終わりを迎えたのである。


━━━━━━━━━━━━


「入れ入れ!突入しろ!中にいる連中は全員ひっとらえるんだ!」


日も落ち始め、空は夕焼けの赤に染まる中、民衆達は歓喜と共に"王宮"の中へと突入する。

王宮内で降王ロメル4世が死んだという知らせ、そして王宮内にいた王妃リザ・アルモニカが民衆軍へと投降し、遂に王宮を守る結界が開かれたからだ。

続々と、雪崩のように王宮に侵入する民衆軍、王宮の中は長い長い兵糧攻めによって疲弊仕切っており、飢えから民衆軍に食事を乞うもの、既に餓死しているものなどで、まさに地獄の有様だった。


「ここはクズの王侯貴族連中とそれに列なる奴らしかいねぇ!…引っ捕えても、殺しても、犯しても構わん!好きにしろ!」

「「「「うおぉぉぉおおお!!!!」」」」


先導する軍隊長の言葉により、民衆軍はさらに歓喜する。

飢えた貴族や使用人の女を捕まえては犯す。まるで遊びをするかのように殺す。"正義"という大義名分を得た民衆を止められる存在は、もはやどこにも居なかった。


「んぁ?なんだァ?…おい!隠し通路だ!隠し通路があったぞ!隊長ー!」

「ふむ…この先だ!この先に忌まわしい"結界"の本体があるぞ!」

「…この先かァ!なら俺が一番乗りだ!」

「「「俺も!俺もだ!結界をぶっ壊せ!」」」


結界の本体へと繋がる通路を見つけた時、民衆の憎悪は頂点に達する。この先に、結界によって外界との連絡を隔て、1000年に渡る王国の安寧の礎となった"本体"が存在するのだ。

持てるあらゆる武器を持ち、隠し通路へと歩を進める民衆軍…。


「…なんだァ、こりゃ、女? どうなってやがる。ここが"結界"の本体じゃ無かったのか、こりゃあどう見ても…」

「地下牢、だな。」


民衆達が求めた先、結界の本体にあるものは…地下牢だった。

地下牢の先、無数の鎖に捕らえられ、無数の楔を体に打ち込まれた、痩せこけている1人の"少女"は、光を通さない虚ろな瞳で自らの部屋へ突入してきた人々を見る。


「…………あなた………誰……?」

「っ…こいつ…生きてるのか…?」

「不気味な…!」


体に打ち込まれた無数の楔、こんな傷では人間が生きていける筈が無い。しかし、目の前の少女は生きていて、顔を上げ、虚ろな瞳で喋りかけすらしてきた。

そして、少しの魔術の心得がある人々は気付いていた。目の前の少女の奥底に眠る、あまりに悍ましい膨大な魔力に…。


「間違い…ない…。こいつだ…こいつが、結界の本体だ!」

「はァ?"これ"がか?」

「馬鹿!気づかないのか!あの女、持っている魔力が我々とは桁違いだ…!」

「そうなのか?まァ…魔術師のお前が言うならそう…なのか?」


騒然とする民衆たち、それらを虚ろな瞳で見つめる少女。


「どうするんだよ、これ…」

「殺せ!こいつが結界の本体なんだろ!すぐに殺せ!」

「しかし…こんな少女を殺すのは…」

「我々の悲願はもうすぐそこなんだぞッ!」

「待て!私がこの少女と話す!」


殺そうとする人、それを押さえつける人、混乱の中、民衆の中の魔術師が前に出る。彼は若くして聡明な魔術師であり、民衆からの信頼も厚い。彼の行動に異を唱える者は居なかった。


「…騒がしてくてすまない。我々は"ファルテノン革命軍"だ。貴方を解放しに来た。」

「解……放……?」

「その前に…この国を覆う大結界、そして王宮を覆う結界、作ったのは貴方か?」


少女は、ゆっくりと頷いた。その瞬間、民衆は怒号に包まれる。


「殺せ!女を殺せ!そいつこそ黒幕だ!」

「ま、待て、無理やり拘束された可能性だって…」

「そいつが結界の本体なんだろ!なら殺せ!俺らの苦しみの原因じゃないか!」

「そうだ!そいつを殺すためにここまでやって来たんだ!」

「殺せ!」

「殺せ!」

「「「「「殺せ!!!」」」」」


暴走する民衆、それを止められる者はここには誰も居なかった。少女の鎖は絶たれ、楔は無理に引きちぎられ、牢内に鮮血が飛び散る。

しかし、民衆は止まらない、何度も少女を打ちのめし、犯し、突き刺した。

無理やり少女は牢の中から引き摺りだされ、暴行の限りを受けた、しかし、少女からの反応はない。


「こいつ…死んだか?」

「……死んで…ないよ……?」

「ヒッ…まだ生きてやがる!化け物め!」


あらん限りの暴力に晒されるも、少女は何も喋らない。しかし、喧騒の中で少女は理解した。彼らは、わたしの作り出した"結界"を憎んでいる。


「………わか…った。」


少女の肉体はいかなる暴行を受けてもすぐさま再生した、それを化け物と罵り、さらなる暴行を加える民衆達。そんな中、少女は1人呟くと、この国を覆う"結界"を解除する。


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『伝令!伝令!ファルテノン大結界の消失が確認されたし!』


念話コール》によって、大結界消失の知らせが届けられる。

遂に、民衆の革命が終わったことを知らせる伝令だった。


それから、聖ファルテノン王国は正式に消滅した。王国時代の宗教的建造物などは軒並み破壊され、国民皆が"新たなる民主国家"の誕生を祝った。

その中で、ひとつ問題があった。結界の中心となった少女…エレノアの処遇である。

彼女は王国神話における"建国の聖女"そのものであり、旧王国の象徴とも言える存在だった。最も、旧王国時代では1000年もの長い間あの"地下牢"に封印され、結界を作り出すだけの存在とされており、その扱いは禁忌でもあったのだが。

旧王国、そして結界の象徴たる少女エレノア。その存在を民衆が良しとする訳もなく、また新国家設立の建前としても、この少女を処刑するのは絶対に必要だった。

しかし、困った事にこの少女にはあらゆる攻撃が"効かない"。

斬っても、撃っても、折っても、その身体はたちまち再生してしまうのだ。

全くの抵抗をしないのをいいことに、再度地下牢に入れられ、毎日看守から恥辱の限りを受けても、少女は何も感じていなかった。


そして、遂に沙汰が下される。それは…"禁域"への島流しだった。

大量の魔物がひしめき、人間では立ち入ることすら出来ない最悪の大陸、禁域。何をやっても殺せない少女には、この場所への島流しが最も妥当とされたのだ。

当初は反対もあったが、対抗する意見もなく、簡単にこの島流しは決まった。


そして、この選択が最悪の選択となることは、民衆の誰しもが知らなかった。

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