第30話 中庭

応接室から出ると、

廊下の奥から歩いてくる

小鳥遊の姿が見えた。

「小鳥さん!」

私が呼びかけると小鳥遊は胸の前で

小さく手を振った。

その表情はどこか沈んでいた。

「・・もしかして。

 笠原さんに会った?」

私は躊躇いがちに問いかけた。

「ええ。

 新しい彼女と

 とても楽しそうにしてた」

「ごめんなさい。

 まさか笠原さんが招待されてたなんて。

 事前に確認しておけばよかった・・」

「気にしないで。

 それより。

 中庭に行ってみない?

 歌川さんが1人で

 奮闘してるのが見えたの」

そう言って小鳥遊は微笑んだ。


玄関を通り過ぎて廊下を進むと、

正面にドアが見えた。

そのドアの前で廊下は左に折れていた。

江藤の話の通り

右棟にも4つの部屋があった。

廊下の突き当たりにある扉を開けて

中庭へ出た瞬間、

私は言葉にならない開放感に包まれた。

しかし。

それはすぐに閉鎖感へと変わった。

頭上には青々とした空が

広がっていたものの、

すぐ右手には

鬱蒼とした森が立ち塞がっていたし、

それ以外の三方向は

コンクリートの壁に囲まれていた。

特に正面に見える2階分の高さの壁には

威圧感さえ覚えた。

その壁の下。

森との境目の辺りに

木製の長方形のテーブルが見えた。

テーブルの近くに置かれた

バーベキューコンロの前に

歌川が立っていた。

一方。

左手に見える壁の隅には

鉄製の丸テーブルが確認できた。

「不思議な空間ね。

 この森、

 どこまで続いてるのかしら?

 2階の窓から見えた範囲では

 ずっと森が続いてたけど・・」

小鳥遊がぽつりと呟いた。

「おーい。

 もうすぐ焼けるぞー!」

その時。

私達に気付いた歌川が

手を止めて声を張り上げた。

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