第20話 2階

玄関を入ると廊下が左右に伸びていた。

そして。

室内は昼間だというのに若干薄暗く、

天井の照明が点いていた。

「お部屋へご案内致します」

「大烏くんの姿が見えないね?」

歌川が訊ねると男装の麗人は頭を下げた。

「申し訳ありません。

 大烏様は少し遅れるとのことです」

それから男装の麗人は廊下を左に進んだ。

私達は黙って後に続いた。


静かだった。

物音1つ聞こえなかった。

天井が高く、

廊下も大人がゆうに5人は

並んで歩けるほどの広さだったが、

私はなぜか閉塞感を感じた。

そして。

それは窓がないことに起因している

ということに気付いた。

変な建物。

中に入って

ますますその印象が強くなった。


廊下の突き当たりにドアがあった。

そのドアの前で

男装の麗人は立ち止まった。

廊下はここで右に折れていて、

その先には同じようなドアが

いくつか並んでいるのが確認できた。

「応接室になります。

 部屋に荷物を置かれた後は、

 こちらでお待ちいただけると

 宜しいかと思います」

そう言うと男装の麗人は先に進んだ。

次のドアの前で

男装の麗人はふたたび立ち止まった。

「こちらは遊戯室となっております。

 中にはバーカウンターと

 ビリヤードテーブル、

 それにソフトダーツのマシンが

 あります」

次のドアまでは少し離れていた。

「こちらは食堂です」

食堂の隣は厨房になっていた。

厨房の先で

廊下は行き止まりになっていて、

そこに階段があった。

男装の麗人はその階段を上った。


2階の廊下は建物の奥から正面に向かって

真っ直ぐに伸びていた。

そして。

廊下の右側に部屋が並んでいた。

その数は5つ。

2階の廊下には1階と比べて

明らかに違う点があった。

各部屋のドアの対面に窓があり、

外の光が廊下に射し込んでいた。

私はその自然な明かりに誘われて

窓に近づいた。

窓から外を見ると、

三方をコンクリートに囲まれた

中庭が見えた。

それはまるで

堀の中の運動場のようだった。


階段に一番近い部屋を私が、

次の部屋を小鳥遊が、

そしてその隣を歌川が使うことになった。


部屋に入るとすぐ右側が

ユニットバスになっていた。

正面、部屋の奥に机と椅子が見えた。

右奥にはベッドがあった。

ベッドとユニットバスの間のスペースには

クローゼットが備え付けられていた。

簡易な造りで調度品もなく

殺風景だったが、

ゲストルームとしては十分すぎた。

そもそも。

私の住んでいる

ワンルームのアパートよりも

はるかに広かった。

自然と溜息が漏れた。

こんな部屋があといくつあるのだろう。

まるでホテルだった。

ただ。

この部屋にも窓がなかった。

ふと独居房という言葉が浮かんで

私は慌てて頭を振った。

どちらにせよ。

これほど快適な独居房なら

文句を言う囚人はいないだろう。


「下に行かない?」

その声に驚いて私は振り向いた。

開いたドアのところに

小鳥遊が立っていた。

「驚かせたかな?

 ノックしたんだけど、

 返事がなかったから」

「ごめんなさい。

 ぼうっとしてて気付かなかった」

私は荷物をベッドに置いて部屋を出た。

ドアを閉めかけた時、

ふとその造りに違和感を覚えた。

「どうかした?」

階段の手前で小鳥遊が振り返った。

「な、何でもない!」

私は思わず勢いよくドアを閉めた。

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