オモイデさん

もも

第1話 見知らぬ親戚

2026年1月1日(木)快晴


年賀状が届いた。

父親宛だ。

送り主は「古屋敷正一」。

同じ苗字だから親戚だろう。

父親は田舎の旧家の出で、親戚が多い。


筆圧の強い角張った大きな字で、

「思い出は戻ってきましたか?」

とだけ書いてある。


あとはよくある、馬のイラストと印字された「あけましておめでとうございます」。


今俺が住んでいるこの戸建ては俺の実家で、半年前まで父親が一人で暮らしていた。

母親は三年前に他界した。

父は脳卒中で倒れ一命を取り留めたが、医師から一人暮らしは無理だと言われ、施設にはいることになったのだ。


父のいない家は空き家になってしまった。

空き家は防犯上危険だし、家が痛むのも早い。そういうわけで、一人っ子の俺が実家を管理することになり、妻と小学二年生の娘・瑠璃との三人で越してきたのだ。


家の名義は父親のままだし、

父が施設へ入ったことを知らない人からの手紙が届くことは時々ある。


正直面倒だ。


返事を出すのも、

この古屋敷正一が誰なのかを親戚に聞いてまわるのも。


文面も変わっていたし、

癖のある人物かもしれない。


今度施設に遊びにいったとき、

父親に渡せばいいか。


テレビを観ながらビールを飲んでいたらそのまま眠ってしまったようで、

妻に叩き起こされる。



1月2日(金)快晴

今日は妻の実家に行ったので疲れた。

良い人たちなのだが、

「若いんだからどんどん食べなさい」と食べさせられるのが玉に傷。

俺はもう四十半ばだ。


帰ってきて、

例の年賀状が妻に見つかる。

妻は律儀な性格なので、返事を書けと絶対に言うはずだから、隠しておいたのだ。


案の定うるさく言われる。

「どこのだれだかわからないんじゃ、

返事の書きようもないよ」

と反論すると、

妻から父親から預かったという

エンディングノートを渡される。


中を開くと、

几帳面に全ての項目に記入がされている。


「私が書くようにお願いしたの。離れて暮らしてたでしょう。いざというとき慌てないようにと思って」

と妻は言った。


あの頑固な父親が素直に、自分が死んだときのための準備をするなんて信じ難いが、父親は妻のことを娘のように可愛がっていたから、言うことを聞いたのかもしれない。


「親戚」のページに、

古屋敷正一の名前はあった。

父親の一番上の兄の、長男らしい。

というと、俺の従兄弟で、

古屋敷家の跡継ぎか。


俺は父親の生家に、一回しか行ったことがない。確か小学校低学年のころだ。

父親は雪深い生まれ故郷を、愛してはいなかったようだ。

その一回の滞在で、古屋敷正一なる人物には出会わなかった、と思う。

長男の長男だから、確かにあの大きな屋敷のどこかにいたはずなのに。


家長だから、

父親のことも気にかけているのだろうか。少し時代遅れの感もあるが、田舎なんてそんなものかもしれない。


そう思いながら、

父親の密度の高い文字を追っていくと、

「年賀状はくるが、一度も返信せず。

絶対に送り返してはいけない」


俺は何度も読み返した。


絶対に?

親戚にも関わらず?

父親になぜか?を尋ねたいが、叶わないだろう。

父は認知症を患っているのだ。


しばらく考えたが、

この件に関しては忘れることにする。

父親宛であるし、

差出人の住所は東北の◯◯県で、東京からかなり離れている。


俺には関係ない。


明日は連休最終日だ。

瑠奈がスケートへ行きたいというので、付き合う予定。


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