第18話
グリムの見た目は人間の男だ。女は女王のみらしい。
高身長筋肉質という完璧なボディー。衣服は下半身のズボンのみで上半身は裸。
瞳が銀色に輝いている。
四方八方から集まっていくグリム。
その中心には【A】ランクと思われる冒険者たちの姿があった。
右奥から数名の冒険者と騎士の集団がグリムを押しのけ、中心へ向けて進んでいた。
冒険者は3名だがあれが【S】だろうか。
装備が違うから見分けるのは簡単だった。
騎士を率いているのはマカダミアン団長ではない。女性のようだ。
「シンク、あれはヤバイぞ。あの状況をくつがえせるとは思えん」
「なんかごっつい上級魔術とかないんですか? パールさんじゃグリムはきついだろうし」
「私、絶対死んじゃいますぅ……」
「パール、生き残ったらお前は魔術学校が剣士育成学校にでも一度行くべきだ。私ですらどうなるか分からんのだ。お前にはここはまだ早すぎる」
「……だと思います」
「まずはあの冒険者たちを救出するのが先だ」
ロードリーさんは両手に持った杖を高く掲げた。
「――【酩酊する母体、共鳴する無垢……】!
「ロードリーさん? それなんの魔術ですか?」
「――【のびやかなる流水】!」
突如、上空に巨大な半透明の赤子が現れた。
赤子は爆発し、貯水が破裂するかのように水が零れ出す。
それは滝のようにも見えた。
大量の水が上空より押し寄せグリムの大群を広く洗い流した。
「ロードリーさん、冒険者も巻き込まれてますよ!」
「仕方がない。これは直接命を奪うようなことはない、息さえできればな。あとは自力でどうにかしてもらうしかない」
だが効果はあった。
グリムは広範囲に広がる形で流され、Aランク冒険者たちは開放された。
騎士団は呆気に取られている目の前のグリムたちを蹴散らし、救出へ向かう。
それは力技で跳ね飛ばしたに過ぎない。
それぞれが合流するころには、散らばったグリムたちは体勢を立て直していた。
冒険者の悲鳴があちこちで聞こえた。
ロードリーさんの水により、運悪く単体で流されてしまった者が何人かいた。
すぐにグリムに捕捉され殺された。
「共倒れよりはマシだ。マシと考えるしかない……」
ロードリーさんにとってもこれは罪悪感の残る作戦だったようだ。
「そこの魔女、よくやってくれた!」
だが冒険者たちはロードリーさんを称えた。
俺たちはすぐに冒険者と騎士団に合流した。
「俺はSランク冒険者のウラジミールだ。さきほどの魔術は上級高位のものか?」
ウラジミールさんは貴族みたいな品のある男だった。
「魔女の魔法だ」
「……よくやってくれた。でなければ彼らは全滅していた」
「協力、感謝する――」
女騎士団長が握手を求めてきた。
握手などしている場合じゃないが、ロードリーさんは応じる。
「私は団長のユリア。上級魔術を扱える者は少しでもほしい」
「私はロードリーだ。こっちはシンク、それからパール」
「ロードリー殿、あなたのランクはいくらだ」と団長。
「私は【D+】だ」
「俺とパールさんは【F+】です」
――沈黙。
冒険者が言った。
「おい大丈夫か、相手はグリムだぞ? いつ女王が出てくるかも分からない状況で」
「ブラッディーウルフを退けてきたのだろう、だからここにいる。それだけで十分だ」
ユリア団長はマカダミアン団長と違い、なかなか寛容な人だった。
馬鹿にするどころか「頼もしい限りだ」と俺にも握手を求めてきたくらいだった。
意外に歓迎されたからか、少し気持ちが軽くなる。
「あの、少しいいですか?」
「どうした……シンクだったか?」
「はい。その、ブラッディーウルフとかグリムも重要ですけど、王都の中がおそらくえらいことになってるので、さっさとここを終わらせて壁内に戻った方がいいと思うんですよ」
「……何の話だ?」
俺の代わりにロードリーさんが壁内の騒動について説明した。
「腐った人間だと?」
ユリア騎士団長やウラジミールさん、他のSランクと思わしき冒険者が神妙な顔をする一方で、一介の騎士やその他の冒険者たちが表情を緩める。
「腐った人間ってどういう意味だ?」
「病魔人じゃあるまいし」
「お前懐かしいこというなー。腐れが来たらなんとかとってヤツだろ? よくお袋が言ってた」
「口と耳を閉じろだっけ?」
「目を合わせるなとも言うよな」
冒険者たちは笑い声を上げた。
つられて騎士も笑う。呑気なもんだ。
だがそこで王都からサイレンと放送が流れた。
『――騎士団および冒険者の方々は、ただちに壁内へご帰還ください! 繰り返します、ただちに壁内へご帰還ください! 市街地にてモンスターが出現しております』
続けて『死人が歩き回っている』などの状況説明が流れた。
静まりかえる冒険者と騎士。
俺はこれ見よがしに言ってやった。
「もたもたしてたら王都が崩壊しますよ」
ユリア団長が「死人だと……」
「何が起きているんだ」とウラジミールさん。
「おい【F+】! だったらおまえ、どうにかできんのか! まだグリムもブラッディーウルフもこれだけいやがんだぞ! ブラッディーウルフだけでもきついんだ!」
「戻るにしてもブラッディーウルフが邪魔で防壁にすらすぐに辿り着けねえ!」
「嫌味が言いたきゃそのまま言ってろ。俺たちの相手はグリムだ!」
がむしゃらに士気を高め、冒険者たちはグリムへと走っていった。
「失礼な奴らだ。シンク、ほうっておけ。ああいう奴らは死ぬまで分からん」
「助けてたげたのに……私は何もしてませんけど」
ロードリーさんやパールさんが苛立つ一方で、俺はなんとも思っていなかった。
罵声には慣れている。
――メリットも持たない奴が冒険者なんかできる訳がない、なめてるのか。
冒険者を始めたころ何度もそう言われた。
ただ王都がこのまま落ちてしまうのも困る。
あと数日は観光も兼ねて滞在したい。
グリムとブラッディーウルフを仕留めても、遠くの岩山からこちらをじっと見ている女王がいる。
魔術は温存しておきたい。
ただ一人ずつやっていては王都がもたない可能性がある。
「グリムってこれ、何人くらいいるか分かりますか?」
「100はくだらんだろう」とユリア団長。「ブラッディーウルフがその倍くらいか。もたもたしている暇はない。――お前たち、ゆくぞ!」
ユリア団長率いる騎士団も進軍する。
ウラジミールさんと他2人の冒険者も駆けて行った。
先に戦闘を始めたAランクの連中がすでに殺され始めているのが見えた。
グリムの拳や蹴りは彼らの盾や剣を次々に破壊した。
大抵の魔術は皮膚に弾かれた。
「二人はここに残っでください。どちらかがパールさんの傍にいた方がいい」
「分かった。私は近接にはむかないしな」
「す、すみません……」
ロードリーさんとパールさんを残し、俺も黒鞘で参戦する。
砂埃の舞う雑踏へと入った。
いきなりグリムの拳に襲われ、即座に黄薔薇の盾で防いだ。
一瞬、動きが止まるもグリムは必至に盾を連打する。だがそのすべてを盾は防いだ。
「こざかしい」
そう言って次に回し蹴りが横から飛んできた。
カウンターを狙う。
「【触角】!」
だが剣先はすれすれでかわされた。
グリムの弱点はブラッディーウルフと同じ、眉間だ。
そこに黒い火が灯っている。
「なんだその赤い目は? お前、人間か?」
無視して再度【触角】を使う。
だがまたかわされた。
道理で冒険者たちが手こずっている訳だ。
「速い」
「お前たち人間が遅いだけだ」
「面倒だ」
剣術でどうにかできると思った。
だが相手が強すぎるのか俺の剣がそれほどでもなかったか、楽にはいかない。
戦闘から離脱し、俺は雑踏の中を走りまわった。
そしてグリムを補足してまわった。戦場に黒い火が次々に灯っていく。
「これで全部か?……まあ、このくらいでいいだろう」
何人捕捉したか分からない。
雑踏から離脱し、ロードリーさんたちの所までさがった。
「――【ファイアボルト】!」
形態【線香花火】を打ち上げ、上空に火種が光る。
火種より、小さな火花が流星群のように飛び散った。
そのすべてはグリムの眉間に命中する。
ばたばたと倒れていくグリム。
冒険者たちは動きを止め「何が起こっている」と口々に困惑し、目をきょろきょろさせた。
「ロードリーさん、どのくらい倒せました」
「す、すごいな……なんだ今の魔法は」
ロードリーさんは戦場へ向けて点になっていた。
目を丸くしながら言葉を失っている。
「グリムが一瞬で……」とパールさんも同じだ。
「ロードリーさん?」
「す、すまん。つい見とれてしまった。多分、4割くらいだ。100は死んだんじゃないかと思うが」
「100か……」
線香花火の限界数が100だとする。
もう一発撃てばグリムの大半を仕留められるか。
だが全滅させるにはあと二発は撃たないとダメだ。
「――【ファイアボルト】!」
とりあえず一発――。
さらに多くのグリムが死んだ。
残ったグリムたちは俺に気付いたようで、困惑する冒険者に目もくれず、全員が対象を切り替え俺に向かって走り出した。
「シンク!」
残りはあの冒険者たちに自力で倒してもらうつもりだったが、仕方ない。
「――【ファイアボルト】!」
数にして50人程度だろうか。
線香花火のもう半分は、ブラッディーウルフたちへ飛来した。
「グリムが、全滅した……」
放心状態であるかのように、ロードリーさんはただ突っ立っていた。
それは冒険者や騎士も同じだった。
ウラジミールさんとユリア団長のところまで走っていくと、さっきまで罵声を飛ばしていた連中が唖然としていた。
「君は一体、何をしたんだ……」とウラジミールさん。
「そんなことより、すぐにブラッディーウルフの討伐に向かってください」
ユリア団長はしゃがみ込み、「グリムが死んでいる。すべて……」と死体の様子を観察している。
「どうなってんだ……」
「あの坊主がやったのか?」
「そうらしい。詠唱してるのが見えた」
「いやいや、ありえねえだろ? ウラジミールですら一人仕留めるだけでも手こずるんだぜ?」
残りの【ファイアボルト】――2発。
できればブラッディーウルフの方にも使って一掃したいが、あの女王の分も残して――。
「ぐわっ!」
急に背後から何かに押さえつけられた。
気が付くと地面に顔を押さえつけられていた。土の味がする。
「女王!?」
誰かの声がそう言った。
おそらくユリア団長のものだ。
体が宙に浮いた。投げ飛ばされたように。。
反動で体が動かない。
どうにか体勢を取り戻そうと地上を確認した時、目の前に赤いローブの女王の姿があった。
「――がはっ!?」
めり込む拳。
腹に深く突きささるように入り、自分の骨のきしむ音が聞こえた。
俺は地上へ急降下した。
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