第3話

 鍛冶屋で溶かしてもらった銀を短剣に塗った。

 純度は高いが銀は傷つきいやすいからあまり頻繁には使えない。

 店主曰く、「銀なんて吸血鬼くらいにしか使わねえし、完全に上級者の持ち物だけどなー。あんちゃん、世捨て人みてねぇな目してるし、めっちゃ弱そうだけど、必要あんのか?――」


 ――だそうだ。

 いい加減、みんな俺の面のことはほっといてほしい。


「――【ファイアボルト】!」


 基礎魔力が二倍になったおかげで、今日はもう5発いけることを知った。

 今度は森でナイトラビットと対峙する。


 迫る火の球を前に、ナイトラビットは即座に盾を構えた。

 だが無駄だ。

致命眼マグニ・トラウマ】の能力により火球は盾を飛び越え、奴の急所である額に向かった。


「よし!」


 ナイトラビットは悲鳴は上げ、腹ばいに倒れ絶命した。

 以前は背中を向けて逃亡した俺だが、今じゃあ軽く瞬殺してしまう。


「マジやべえわ、俺……」


 弱すぎた期間が長すぎたからか、どこか現実的に感じられない。


 ナイトラビットから得られる戦利品は盾と剣だ。

 今回の個体は、ナイトを名乗りながら鎧等は一切身につけていなかった。裸だ。


 ――『【黄薔薇きばらの盾】と【黒鞘くろさや】を手に入れました』


 ナイトラビットは個体によって装備している盾や剣の種類が違う。

 個体によっては鎧や、アクセサリータイプの魔道具を見に着けていたりすると以前モルザフに聞いたことがある。


「これ、結構当たりだよなあ?」


 ――『【黄薔薇きばらの盾】――頑固な騎士が携えていたと言われる銀色の片手用の盾。黄色い薔薇の絵が描かれている。魔法の力により物理ダメージカット率100パーセントを実現しているが、魔術や属性攻撃に弱い』


「はい使えるー!」


 魔術師の特性でもあるが、俺は近接戦闘にあまり自信がない。

 かといってパーティーで後衛の役目を満たすほどのスキルもないが。

 これは相手に接近された際、かなり役に立つだろう。

 なにしろ物理カット率100パーセントだ!――。

 ただ「魔法の力」と言っておきながら魔術に弱い点が気になる。

 盾を左手首に装備した。


 ――『【黒鞘くろさや】――灰色の波打つ模様が描かれた棒状の黒い仕込み杖。ある貴族の子息が自らの執事に贈ったとされる代物』


「これは……強いのか?」


 鞘から剣を抜くと、刃の表面にしみったれた面が写る――俺だ。

 輝きから見て、なんとなく強そうさ気がするが、仕込み杖というだけあって刀身が細い。

 岩にでも当たれば軽く折れそうほどだ。


「近接タイプじゃないけど、まあ持っとくか。何かには使えるだろ」


 市場で買った短剣よりは使えるはずだ。

 そんなことより、どうせならこの【黒鞘】に銀を塗りたかった。




 〇





「おばちゃん、コカトリスの肉ってある?」


 ギルドの受付でナイトラビットを売った。

 2000Gとまずまずな金額だが、これを“まずまず”なんて言える日が来るとは……。

 俺の感覚も随分と肥えちゃったなー。


 アリスラビットの分と合わせ、所持金は7000G。

 晩飯は奮発していいものを食ってやろうと思った訳だ――。


「あら、シンクじゃなかい。って、あんた今コカトリスって言ったかい?」

「ああ、今夜はコカトリスのステーキが食いたいんだ」

「入ってきてはいるけどねえ、持ち合わせはあんのかい? 言っとくがめっちゃ高いよ?」


 この人はフランベーヌさんと言って、食堂で働くおばちゃんだ。

太陽の手イカロス・デス】という冒険者顔負けのメリットの持ち主で、なんでも燃えるように手が熱くなるらしい。

 熱伝導率の高いフランパンで調理する飯が美味いことで有名だ。


「高いって言っても2000G程度じゃなかったっけ?」


 コカトリスの肉は高級品だ。


「なんだい、随分羽振りのいい口ぶりじゃないかい?」

「実はメリットが発現したんだな、にっひっひー」

「そりゃ本当かい!? で、どんなメリットなんだい?」

「んー……よくわからん」

「なんだいそれ?」

「まあ、これからはちょっといい飯が食えるかもってくらいだ。他は何も変わんないよ」

「そうなのかい? そりゃ残念だね。まあ、でも良かったじゃないか。あんた、今だに【ファイアボルト】しか使えないんだろ?」

「ああ」

「メリットが発現したんだ。金貯めて、魔術大学にでも行って、一から魔術を覚えなおそうとかって風には思わないのかい?」

「全然」


 フランベーヌさんは溜息をつき、店の冷蔵庫からコカトリスの肉を持ってきた。

 早速料理を始めてくれた。


「モルザフみたいな人生でいいのかい?」

「――誰がイケメンだって?」


 と、そこにモルザフが現れた。

 毎度のことだからか、誰もこいつのボケにはつっこまない。


「シンクがメリット発現したんだってさ。だからこの際、学校にでも通って一から魔術を覚えなおしたらどうだいって、提案してたとこさ」

「お、マジか!?――どんなメリットだったんだ?」

「別に。なんか命中率が上がる感じのヤツだよ」

「なんだそれ?」


 答えたくないのには理由がある。


 おばちゃんはこう見えて、元【S】ランク冒険者だ。

 若い頃は【太陽の手イカロス・デス】の力で両手に高熱の炎を宿し、殴ったり放射したり……。

 つまり炎を自在に操る凄腕の冒険者だったってことだ。

 数々の名のあるパーティーに所属していた実績もあると聞く。

 まあ、全体的に詳しくは知らんが。


 モルザフは最高でランク【A+】まで到達したことのある冒険者だ。

 サボっていたら【B】まで落ちたらしいが。

 こいつのメリット【闘神の宿りアレス・トランス】は、発動中、神の如き強靭な肉体を手にすることができる――とまで言われる代物だ。

 さらに、今こいつの席に雑にもたれかかっているあのごつい大剣は、【S】ランク級のモンスターを倒した素材で作られ高級品だ。


「あ、おばちゃん、モルザフにもコカトリス一つ焼いてやって」

「え、いいのかよシンク」

「おう。いつも雑学を教えてもらってる礼だ。おばちゃん、お金――」

「はいよ。よほどいい事があったんだねー、こんな飲んだくれに奢るなんて」


 ついでにビールも買った。

 コカトリスのステーキが二つで4200G。ビールが300G。

 合計で4500G――。


 ステーキとビールを持って席についた。


 ――何故かこのギルドには、高級なメリットを持つ上級冒険者や、そうだった者たちが集まっている。


 モルザフにしろ、おばちゃんにしろそうだ。

 みんな派手でカッコイイ、強力なメリットを持っている。

 魔術の知識いらんかっただろうと思うほどのメリットだ。

 義務教育だから学んだってだけなんだろうけど……。


 まあ俺自身がそういう強い奴にしか目がいかないってだけではある。

 全体で見れば8割9割は普通な訳だし。


 コカトリスの肉を口に運ぶ……うん、美味い。

 人生で二度目だ。

 昔モルザフに奢ってもらった。


「お前に飯を奢られる日が来るとはな」


 モルザフが向かいに座った。

 ちゃっかり大剣を背負っている。


「で、メリットの申請は済ませたのか?」

「まだしてない。それより、なんか今日のギルド、人多くないか?」

「ん。ああ、それはだなあ。なんでも、王都の方でセイトカイ・・・・・と国との会合があったらしい」

「会合……」


 それと人の多さと一体何の関係があるのか。

 王族なんて、王都から遠く離れたこの町には関係ないだろうに。


「ん、セイトカイ?」


 俺が訊ねると、モルザフは魔法で空中に文字を書く。


「――【聖兎飼せいとかい】だ、知らねえか?」

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