第28話 髄の神官

「それもかなり強力な奴だ。長老が感知した」


 ディートは何故か袖をめくり、肩を出した。

 そこには円で象られた何かの模様があった。


「刻印さ」

「刻印?」

「髄の刻印。神官であろうと学生であろうと、一度髄で魔法を学んだ者は、等しくこの刻印をうける」袖をなおすディート「魔術は強大だ。ものによっては小国程度なら一瞬で吹き飛ばせるものもあると聞く。そんな連中が野放しなんて、訳ないよね?」

「まあ、まあ……」

「だから各流派はそれぞれ体のどこかに刻印を刻むことで、魔法使いを縛るんだ。悪用しても感知した時、刻印の色でどこの流派か直ぐに分かる」

「ウォールハーデンに現れた魔法使いは?」

「野良だった」

「野良?」

「ああ。刻印がなかったんだよ」

「それって」

「刻印ははがせない。一度刻めば死んでもはがせない、そういうものだ。つまりこの魔法使いはどこの流派にも属してない」


 ディートの表情からして、問題はかなり深刻なのだとそう思った。

 でもどこの流派でもないなら放っておけばいいのに。


「もちろん野良の魔法使いは珍しくない。時折どこかの村に魔女が現れることだってある。ふたを開けると鍋でクリーチャーを混ぜ合わせてただけとか、まあそんなことばかりだけどね。でも今回は別だ。長老が感知しただけだから、神官ですら具体的にはまだ知らない。でも野良ではありえないほどの魔力だったらしい。秘めるのは誰だってできるけど、使うとなると独学では難しい。容易なことじゃない」

「ディート?」


 ディートは話す過程でどんどん表情が暗くなっていた。


「あ、ごめん」と誤魔化すようにサラダを食べるディート。

 なんだろう、昔と雰囲気が全然違う。

 そこでディートが急に席を立った。


「ディート、どうしたの?」とレアーナが心配する。

「ごめん、忘れてたよ。現場に行くんだった」と椅子を元に戻すディート。「今話したことなんだけど、その、実は喋っちゃダメだって言われてるんだよね。もう喋っちゃったけど」


 そう言いながら苦笑いするディートに、レアーナ「誰にも言わないわ。話してくれてありがとう」と微笑む。


「じゃあキリアム、レアーナ、ミーナ。それからフィートも、僕はいくよ。しばらくはkの町にいるからまた会おう」


 そう言ってディートはテーブルにお金を置くと店を出て行った。

 その背中をレアーナは、僕には見せないキラキラした瞳で見つめていた。




 ▽





 店を出たディートはその場を離れ、しばらくするととあるカフェの屋外に面した席に座った。


「どうだった、懐かしのウォールハーデンは?」


 そこには既に丸テーブルを囲むように、ディート以外に3人の姿があった。

 どれもフードを深くかぶっていて顔をが見えない。


「別に、昔のことさ懐かしくもない。そっちは?」

「何も」と男はお手上げといった様子で手を広げた。「つーか熱いんだよ、この国」とフードを取ると、赤毛のロングヘアーの男が現れる。

 ――髄の神官、ダミアン・ウォーズ。


 同様に他の二人もフードを取った。

 長い銀髪の細い目をした美男子

 ――髄の神官、レイ・フォンス


 そしてもう一人は黒い髪をオールバックに固めた凛々しい男だ。

 眉や目鼻立ちがはっきりしており、顔が濃い。

 ――髄の神官、オルギエルド・クロード

 三人とも、ディートとは歳が離れているようだ。


「そんな魔法使いがいるのかどうか……」とレイは力ない言葉を呟く。

 対しオルギエルドは「長老の言葉だ、間違いない」と頑固な無表情でそう語る。

「まあ、気長に様子をみよう。一応、適当に唾はつけておいた。昔のつても含めてね」

「唾? なんだディートハルト、いつになく楽しそうじゃねえか」とダミアン。

「そう見えるかい?」

「ああ」

「ハズレ、逆だよ。がっかりしてるんだ」

「がっかりだあ?」

「昔の友人にあったんだ。子供のころはよく憧れた」

「はっ! お前にそんな奴がいたのか?」

「同感。まさかそんな彼に魔力がないなんて思いもしなかったよ」

「はあ? そんな奴が実在してんのか? 魔力ってのは誰にでもあるもんだろ?」

「そういえば騎士学院だけど、今年の入学生にそういう子が一人いるんだってね」とレイ。

「ああ、どうやらそれが、それらしい」とディートハルトはニヤリと笑った。

「魔力がないか」とオルギエルドが静かに呟いた。「魔力がなくては始まりもない。それで騎士とは何の冗談か。どうやらウォールハーデンは衰えたようだ。そこに謎の魔法使い」

「オルギエルド、僕は僕のやり方で探させてもらうよ。適当に流布しておいたから、まだこの国にいるならいずれ本人の耳に入るはずだ。直に反応を見せるよ」

「……真面目にやれよ?」

「え?」

「……」言葉もなく睨むオルギエルド。

「ふっ……参ったな。やっぱりオルギエルドは騙せない。いや、ちょっと思いがけず綺麗になってた子がいてね、ついでに遊んで帰ろうかと思ってね」

「お前の素行の悪さに口を挿むつもりはないが、ほどほどにな」とオルギエルドの姿が灰に消えた。

「では私もこれで」とレイも灰にはり姿を消す。

「ディートハルト、魔法だけは悪用するな。破門になったら終わるぞ」とダミアンも同じく消えた。

「そんな馬鹿はやらないよ。これに魔法はいらない」

「お待たせしました」


 そこへ若い女性店員が飲み物を持ってきた。


「ありがとうございます」


 ディートは白い歯を見せニッコリと爽やかに笑った。

 すると店員は頬を赤らめ、恥ずかしそうに去って行く。


「僕自身が魔法だからね」


 中指を軽くはじき、まだ口のつけられていないグラスが倒れる。

 カフェオレが零れ、だがディートの姿は灰に消えていた。

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