輪郭のない世界
ちびまるフォイ
人口過密の田舎
「はあ、やっぱり田舎は人が少なくていいなぁ」
街中でのせわしない日々を捨て、田舎へと引っ越しを決めた。
田舎といってもそこそこ発展していて不便はない。
まずは散策ということで、街をぶらぶら歩くことに。
「あ痛っ」
なにかにぶつかった。
反射的に謝ったが何もなかった。
「今だれかにぶつかった……?」
幽霊だろうかと振り返った。
あるのは閉店セールとのぼりを出してる古びた家電屋。
年中出してるのだろう。年季が入っている。
「こんにちは」
「いらっしゃい。うちはもう閉店するよ。
どんな商品も99%オフだ」
「どんな商品があるんです?
新生活をはじめるので家電も買おうかなと」
「それならこの……二槽式洗濯機とかがオススメ。
片方で洗濯、もう片方で乾燥ができるよ!」
「いや……なんか黄ばんでません? こっちは?」
「ああ、それはコピー機」
「売ってるのはじめてみました」
「もとはどこかの家庭にあったらしい。
んで、空き家に放置されてたから買い取ったのさ」
「おもしろそうですね。買ってもいいですか?」
「正気かい? まあ断らないけども」
人生ではじめてコピー機を買ってしまった。
家で電源をつけてみると、当たり前にインクは尽きている。
というかもうインクを入れる場所すら壊れている。
「はは。スクラップじゃないか」
ためしに紙を入れてコピーボタンを押す。
まもなくコピーが終わる。
排出口にはなにもない。
「あれぇ? コピー終わった音鳴ったのに何もない……」
排出口に手をかけたときだった。
指先を紙で切ってしまった。
「え!? こ、これ……透明の紙がある!?」
排出口には紙の感触があった。
今度は別のものをコピーしてみる。
排出口にはやっぱり何も見えないが、
触ってみると透明なキーホルダーがコピーされていた。
「すごい! このコピー機は透明コピーしてくれるのか!!」
入れたものを寸分たがわず透明にして複製する。
これはなにかに使えるかもしれない。
色々考えてはじめたのは「保護カバー製造機」として使うことにした。
それからしばらくして、自分で起業した保護カバー会社は大成功。
あらゆるものの保護カバーを作ってくれと依頼が止まらない。
「わっはっは! 大成功だ!」
なんでも透明で複製してくれるので、特に美術館周りで依頼が多い。
これまでガラスケースで保護していたものも、
美術品と同じ形の透明品をコピーする。
それを本体の美術品にかぶせれば、
オーダーメイドの美術品カバーのできあがり。
その他にも、潔癖症の人向けの専用手袋。
愛車を守るための保護カバーなんかも人気。
SNSでバズるとますます生産が追いつかなくなる。
「まいったなぁ。このペースじゃ今の依頼を終えるのも10年後だ……」
さすがに1台を1日中まわしても供給が追いつかなくなる。
あの閉店セール家電屋に聞いても、同型のコピー機は無いらしい。
どうしたものか……。
「……あ、もしかして、コピー機をコピーできないかな」
コピー機のモードを「スキャンモード」に切り替える。
スキャンの光を鏡で反射させ、コピー機自身をスキャンさせる。
すると、コピー機の透明コピーが出来上がってしまった。
肉眼では見えないが、感触でそこにあるのがわかる。
体が覚えているボタンの位置に指をはわせてスイッチを入れる。
「すごい、コピー機としても動いてる! これなら量産できるぞ!」
透明コピー機を何台も複製した。
見えないのでボタンの位置にはマスキングテープを貼る。
ますます透明コピー機での仕事がはかどるだろう。
「これで大儲け間違いなしだ!!」
すっかり気分を良くして眠りについた。
その日の夜のこと。
ガサガサという音と、いくつもの足音で目が覚める。
「うるさいなぁ……こんな時間に……」
眠い目をこすって体を起こした。
そこには、目出し帽の人たちがコピー機を運び出してるところだった。
「ど、泥棒!?」
「おい黙らせろ!!」
泥棒たちは慣れた手つきで自分をあっという間に拘束。
数分も経たずに透明コピー機は運び出されてしまった。
自分の会社はあまりに有名になりすぎてしまった。
翌日、警察がやってきて事情聴取を受けた。
「ということなんです、犯人を見つけてください!」
「それはやりますが、盗られたものは?」
「透明コピー機です!! めっちゃ重要なものなんです!」
「透明……なんです?」
「透明でコピーできるすぐれものなんですよ!!」
「そんなの誰がいるんですか」
人命が奪われたわけじゃない、と警察はどこか他人事。
結局、犯人の逮捕はおろか透明コピー機も戻らなかった。
家には1台だけ透明コピー機が残っていた。
マスキングテープ貼り忘れていたので、
犯人も透明なコピー機の存在に気づけなかったのだろう。
「これからどうしたらいいんだろう。
また前と同じ仕事するしかないのかなぁ」
喪失感に暮れてテレビを付ける。
ちょうどこの街に関する地元ニュースをやっていた。
『本日、男性が銃で撃たれました。凶器は見つかっていません』
『部屋で女性の刺殺体が発見されました。凶器はいまだ未発見』
『高齢の夫婦がふたりとも鈍器で殺され、凶器は見つかってないです』
「急に物騒になったな……」
どれもひどいニュースばかりだった。
気が滅入ったのでTVの電源をオフにしたとき、ハッとした。
「ま、まさか……」
共通点に気づく。どれも凶器が見つかっていないことに。
見つからない理由はそれが透明だからなんじゃないか。
「あの泥棒たち、コピー機を持ち出して……。
と、透明な凶器を作るのが目的だったのか!?」
透明であればどんな凶器も発見されにくい。
犯罪し放題だ。
銃も、刃物も、鈍器も透明にできてしまう。
そしてこの街の警察のやる気なさを自分は知っている。
透明凶器で武装した人が強盗に来て殺されても
きっと犯人は探すことも、自分を守ることもしないだろう。
「ああ、なんてことだ。
この町はならずものの世界になってしまった!」
自分の身を守る方法をあれこれ考えてみる。
でもいい方法は思いつかない。
どれだけ防犯を強化したところで
いつか襲われるんじゃないかという不安は消えない。
いったいどうすれば……。
ふと顔をあげたとき、その目線の先には透明コピー機があった。
「あ……こ、これだ……! この手があった!」
ひとつの方法を思いついた。
スキャンモードにして透明コピーを作り出す。
その後、凶器を透明コピーして男性を殴り殺した。
数日後にニュースが流れる。
『本日、部屋で男性が何者かに殺される事件が発生。
被害者は保護カバーで財をなした社長でした。
凶器はまだ見つかっていません』
ニュースに映し出される自分の写真を見て思い出す。
ああ、自分はあんな顔だったなと。
今じゃ鏡を見ても自分の顔を見ることすらできない。
「ああ、透明人間になれてよかった!
これでもう危険な犯罪者から襲われないぞ!」
透明コピー機で自分を透明コピーしてよかった。
これからは物騒なこの町でも心配なく暮らしていける。
でもなぜか……。
この町は前より人が増えている気がする。
なにも見えないがーー。
輪郭のない世界 ちびまるフォイ @firestorage
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