第15話 旧校舎の秘め事と、不可視の手
「……準備完了でござるな、翔太氏!」
次の日の放課後の旧校舎。埃の舞う使われていない会議室で、吉田が鼻息荒く設営を終えた。机を並べただけの簡素なベッドだが、入り口には吉田が手書きした『高木式・極限癒やし処』の怪しい看板が掲げられている。
(……色々と協力してもらってるのに悪いけど、吉田にスキルのことは絶対に秘密だ。吉田に『スキルボード』なんて教えたら、興奮してボリュームも考えず喋りっぱなしになって僕の人生が終わる)
僕は視界の端で淡く光るボードを、吉田の様子を伺いながら確認した。
【累積施術人数:100人】
昨日のバイトでようやく三桁に乗ったばかりだ。1万人なんて気が遠くなるけど、吉田の「集客力」と、手に入れたばかりの『不可視の手』があれば、効率は格段に上がるはずだ。
「一人目のお客様、バレー部の佐々木殿でござる! 入室を許可するでござるよ!」
ガラリとドアが開き、長身の美少女が入ってきた。バレー部の絶対的エース、佐々木芽衣さんだ。ショートカットが似合う凛々しい顔立ちだが、今は不安げに僕を見ている。
「……高木くん、本当に大丈夫? みゆきが勧めるから来たけど……その、変なこと、されない……?」
「……僕みたいな、モヤシみたいなインキャが、佐々木さんみたいな……その、眩しい人に、変なことなんて、恐れ多すぎて無理ですからっ!」
早くフライのスキルが欲しくて忘れてたけど、僕インキャだった!?
僕は必死に首を振った。嘘じゃない。男子に触られるのが不安だというオーラをひしひしと感じて、心臓は爆発寸前だ。
「……ふふ、何それ。じゃあ、お願いしようかな」
彼女がベッドに横たわる。僕は深呼吸をして、心を落ち着け、彼女の腰に手を置いた。
【スキル発動:マッサージ Lv3 + 不可視の手】
僕の周りに、僕にしか見えない「三個目、四個目の手」が音もなく現れる。
(よし、吉田もマッサージ中の女の子を見るなんて無粋な真似はしてないな。そういうところ紳士なんだよな)
自分の両手で腰の骨格を矯正しながら、不可視の手で同時にガチガチの肩甲骨を剥がしていく。
「――っ!? ……あ、あああぁ……っ!」
一箇所、腰の奥にある「凝りの芯」を捉えた瞬間、彼女の背中がしなやかに反った。さらに不可視の手が肩の重みを一気に取り除くと、彼女は言葉にならない声を漏らした。
「すごい……重かった腰も肩も、一気に……っ。高木くんの手、どうなってるの……? 二つ以上の場所を、同時に触られてるみたいな……っ」
「……あ、それは、気のせいだよ。僕が、細かく動いてるから」
冷や汗をかきながら誤魔化すが、効率は二倍だ。佐々木さんは完全に骨抜きになり、夢見心地で部屋を出ていった。
何人かマッサージを繰り返し、
四人目に現れたのは、水泳部のホープ、堀紀子さんだった。
「……よろしく、高木くん」
彼女はスポーツタオルを羽織っていたが、その下は露出度の高いトレーニングウェアだった。健康的に日焼けした肌に、競泳水着の跡が白く残っている。そのコントラストが、やけに生々しい。
「……プールの塩素で、肌がカサカサになっちゃって。髪もパサつくし……日焼けも、気になっちゃって」
「……わかった。美容系を重点的にやるね」
【スキル:美容系 Tier2:ヘアケア + 美肌効果】
彼女の背中にオイルを馴染ませ、自分の両手でリンパを流す。同時に、不可視の手で彼女のパサついた髪を優しく撫で、頭皮からエネルギーを注入していく。
「あ、はぁ……っ! 高木くんの手、すごく……気持ちいい……っ。背中だけじゃなくて、頭の先まで……とろとろに、溶かされていくみたい……」
塩素で傷んだ皮膚が、僕の指(と不可視の指)が通るたびにしっとりと、真珠のような輝きを取り戻していく。
日焼けの跡が残るデコルテ付近を不可視の手でそっと癒やすと、彼女はシーツをギュッと握りしめ、熱い吐息を狭い会議室に充満させた。
「……はい、終わり。髪も肌も、ケアしておいたよ」
「……信じられない。……高木くん、これ、またやってくれる? 独り占めしたくなっちゃうな……」
彼女は上気した顔で僕をじっと見つめ、名残惜しそうに去っていった。
「……ふぅ。これで、五人か」
本日最後のお客様を送り出し、僕は椅子に崩れ落ちた。不可視の手を同時に操るのは、思った以上に精神を使う。
「お疲れ様でござる、翔太氏! 見るがいい、彼女たちの満足げな顔を! 拙者、お主を信じてよかったでござるよ!」
吉田が「いい奴」な顔をして、スポーツドリンクを差し出してきた。
正直、こいつの管理能力がなければ、この短時間で五人を捌くのは無理だった。
「……ありがとう、吉田。助かったよ」
「……っ、よせやい。拙者はただ、翔太氏がどこまで昇り詰めるか見たいだけでござる!」
【現在の実績】
累積施術人数:105人
次のボーナスまで:あと895人
不可視の四手。この秘密の武器があれば、1000人の大台も案外早く突破できるかもしれない。
僕は、実体化した自分の両手を見つめ、次なる「修行」への覚悟を決めた。
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