第12話 サロンへの招待と、シルクの和解

「……違うんだ。本当に、違うんだよ、高橋さん」


翌日の昼休み。僕は校舎の裏で、ようやくみゆきさんを捕まえた。

彼女はまだ少し顔を赤くして、僕と目を合わせようとしない。周囲の女子たちからは「あ、タチ(攻め)の人だ」という痛い視線が刺さる。このままでは僕の学園生活は、透明化を待たずして社会的に消滅する。


「……何が違うの? 吉田くん、あんなに……あんなに幸せそうな声出してたのに」


「あれは……! 骨格矯正に伴う好転反応で……! とにかく、一度僕が働いているお店に来てほしいんだ。そこで僕が何をやってるか、ちゃんと見せるから。……お願い」


僕は必死に頭を下げた。叔母の恵美さんには事情を話し、特別に「モデル兼お客様」としてみゆきさんを招待する許可をもらっておいた。


夕暮れ時。リラクゼーションサロン『癒しの手』

落ち着いたアロマの香りと、高級感のある内装に、みゆきさんは圧倒されたようにキョロキョロと辺りを見回していた。


「……すごい。本当に、本格的なお店なんだね」

「あら、あなたが翔太の言っていたお友達? いらっしゃい、可愛らしい子ね」


恵美さんがプロの笑顔で迎え入れる。その横で、いとこのあかり姉ちゃんが「翔太、やるじゃん」とニヤニヤしながら僕の脇腹を突ついてくる。


「さあ、みゆきちゃん。今日は翔太の『実力』を、全身で味わってちょうだい。これに着替えてね」


恵美さんが差し出したのは、例のシルクサテンの施術着。

あの光沢、あの滑らかさ。それを手にしたみゆきさんは、少し戸惑いながらも更衣室へ向かった。


数分後。

カーテンを開けて出てきた彼女の姿に、僕は改めて心臓が跳ねた。

淡いピンクのサテン生地が、彼女の若々しい肌を艶やかに引き立てている。下着を外しているのか、生地が動くたびに彼女の柔らかいラインが揺れ、隠しきれない色香が防音室の中に充満した。


「……高木くん。なんか、この服……そわそわするね」


「……プロの施術には、摩擦の少ないこの素材が一番なんだ。……じゃあ、始めてもいいかな?」


【スキル発動:マッサージ Lv3 + 美容系:微調整モード】


彼女がベッドに横たわると、僕は指先に全神経を集中させた。

誤解を解くためには、言葉はいらない。この「指」で納得させるしかない。


「――っ……あ、ああ……っ」


指がサテン越しに彼女の肩に触れた瞬間、みゆきさんの体がビクンと震えた。

吉田の時とは違う、繊細で熱いエネルギーの奔流。

凝り固まった筋肉を溶かし、リンパを完璧な速度で流していく。


「すごい……。温かくて、全身が……とろとろに、溶かされていくみたい……」


彼女の声が、次第に甘く、潤んでいく。

僕は「脂肪再配置」を極めて慎重に、でも確実に発動させた。

肩の荷を降ろすように、胸の重みを最適な位置へ。背中のラインを美しく。

指先が彼女の曲線をなぞるたび、サテン生地がキュッ、キュッ、と艶めかしい音を立て、彼女の吐息は熱を帯びていく。


「あ、はぁ……っ。高木くん……すご、い。……疑って、ごめんね。こんなの……女の子の事嫌いだったら出来ないよね……っ」


彼女は涙目で僕を見上げ、シーツをギュッと握りしめた。

その瞳には、軽蔑の色など微塵もなかった。あるのは、圧倒的な「快感」と、それをもたらす僕への深い信頼、そして……少しの熱烈な感情。


……

「……ふぅ。お疲れ様」


一時間の施術を終え、更衣室から出てきたみゆきさんは、まるで別人だった。

肌は内側から発光するように輝き、瞳は潤み、立ち姿はモデルのように美しい。


「……高木くん。私、決めた」


「え?」


彼女は僕の手をぎゅっと握り、真っ赤な顔で宣言した。


「私……高木くんの『一番の味方』になる。だから……学校でも、またお願いしてもいいかな? もちろん、二人きりの時に」


その言葉に、後ろで見ていた恵美さんとあかり姉ちゃんが「ひゅ〜!」と冷やかした。

誤解は解けた。……解けたが、代わりに別の「大きなフラグ」が立ってしまったような気がした。


【現在の実績】

累積施術人数:7人(更新なし)

獲得経験値:250exp(誤解払拭・信頼回復ボーナス)

ボーナスまで:あと93人


空を飛ぶための道。

それは、たくさんの女の子たちの「甘い誘惑」を乗り越えていく、過酷(?)な修行の連続だった。

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