俺だけジョブチェンジできる“理由”が世界の禁忌

SeptArc

第1部 第1話 「未定義」

村の朝は、鐘の音から始まる。


この村では、生まれた子どもが五歳になると、神殿へ連れて行かれる。

額に手を当てられ、祈りの言葉を授けられ――そして、その人生の役割が決まる。


戦士。

魔法使い。

農民。

鍛冶師。


それは祝福であり、同時に鎖だった。


俺は、その日をよく覚えている。



神官は、俺の額に手を当てたまま、しばらく黙り込んでいた。


周囲の大人たちは息を潜め、同年代の子どもたちはそわそわと足を揺らしている。

やがて、神官は困ったように眉をひそめた。


「……もう一度」


祈りが繰り返される。

だが、結果は変わらなかった。


神官は、何も言わなかった。

いや、言えなかったのだと思う。


その日から俺は、村で唯一――

ジョブを持たない子どもになった。



「役に立たないなら、せめて邪魔はするな」


それが、俺に向けられる一番優しい言葉だった。


畑仕事を手伝っても、力は並以下。

狩りに出ても、剣も弓も中途半端。

魔法なんて、最初から期待もされない。


ジョブを持たない人間は、成長しない。

そう、この世界では信じられている。


だから俺は、村の外れで、壊れた柵を直したり、捨てられた道具を集めたりしながら生きていた。



変わったのは、その日の夕方だった。


村に魔物が出た。

それも、ただの小型ではない。


警鐘が鳴り、戦える者たちが武器を取る。

俺は逃げ遅れた子どもを見つけ、引きずるように納屋へ押し込んだ。


――その背後で、地面が揺れた。


振り返った瞬間、視界が赤く染まる。


牙。

爪。

唾液の飛び散る音。


終わりだ、と思った。


その瞬間――



視界に、文字が浮かんだ。


【警告】

ジョブ未定義個体を確認


初期設定を開始します


▼選択可能ジョブ

・剣士

・斥候

・魔法使い


息が止まった。


俺は、今まで一度も見たことのない光景を、確かに“理解”していた。

なぜか分からない。

だが、直感的に分かった。


――選べ。


魔物が迫る。

考える時間はない。


俺は、剣士を選んだ。



体が、軽くなる。


腕に力が満ち、視界が研ぎ澄まされる。

拾い物の剣が、まるで長年使ってきた相棒のように馴染んだ。


気づいたときには、魔物は地面に伏していた。


血の匂い。

静まり返る空気。


俺は、剣を握ったまま、立ち尽くしていた。



だが、それで終わりではなかった。


視界の文字は、消えなかった。


【ジョブ変更が可能です】

クールタイム:なし


俺は、ゆっくりと理解した。


この世界で、

ありえないことが起きている。


そして同時に――

どこか、確信していた。


これは、祝福じゃない。


きっと――

世界が許していない力だ。


夕焼けの中、魔物の死体を前に、

俺は初めて知った。


自分が、

この世界の外側に立ってしまったということを。

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