『俺達のグレートなキャンプ236 CIAがキャンプ場にいるって!よし見つけよう』
海山純平
第236話 CIAがキャンプ場にいるって!よし見つけよう
俺達のグレートなキャンプ236 CIAがキャンプ場にいるって!よし見つけよう
「おい千葉、富山!集合ー!!」
石川の声が長野県の山間にあるキャンプ場「森林の谷オートキャンプ場」に響き渡る。午後三時、秋の爽やかな風が吹き抜ける中、石川は両手を広げて仁王立ちしている。その表情は満面の笑みで、目はギラギラと輝いている。いつもの「何か思いついた顔」だ。
「はーい!何ー?」
千葉が小走りでやってくる。まだキャンプ歴半年だが、すっかり石川のペースに染まっている。
「また何か思いついたの...?」
富山が遠くから疲れた表情でゆっくりと歩いてくる。肩を落とし、すでに諦めの境地に達したような足取り。長年の経験から「石川の集合」がロクなことにならないと知っているのだ。
石川はニヤリと笑うと、懐からスマートフォンを取り出した。
「見ろよこれ!昨日ネットで見つけたんだけどさ!」
画面には『CIA東アジア支部、日本国内での活動範囲を拡大』という見出しの記事。
「うわー!CIAって!アメリカのスパイ組織じゃん!すごい!」
千葉の声が裏返る。目をまん丸にして興奮している。
「そうなんだよ!でさ、記事読んでたら気づいちゃったんだよね。これはもう天啓だった」
石川が人差し指を立てて、探偵のような仕草をする。
「やめて...その続き聞きたくない...絶対ろくでもないこと言い出す...」
富山が両手で顔を覆う。
「CIAの工作員って、カバーとして観光客を装うじゃん?で、観光客が集まる場所って...キャンプ場じゃん!!だって考えてもみろよ、キャンプ場なら誰でもいるし、怪しまれないし、野外だから盗聴器の心配もない!完璧な潜伏場所だろ!?」
石川が両手を天に突き上げる。その動作はまるで真理を見つけた哲学者のよう。周囲のキャンパー数名が振り返る。
「なるほどー!!確かに!理にかなってる!キャンプ場なら自然だもんね!目立たないし!」
千葉が膝を叩いて納得する。完全に石川のペースだ。
「ないない!絶対ないから!統計的にも確率的にもありえないから!というかそもそもCIAが日本のキャンプ場に潜伏する理由がないでしょ!」
富山が両手を振って否定する。しかし声には力がない。
「というわけで!今回の『俺達のグレートなキャンプ』第二百三十六回の暇つぶしはァァァ!!」
石川が胸を張って宣言する。周囲の視線が集まる。
「『キャンプ場に潜入しているCIA工作員(本物)を探り当てる』でーす!!」
石川の声がキャンプ場中に響く。近くでバーベキューの準備をしていた家族連れが動きを止める。ハンモックで昼寝していた男性が起き上がる。
「いぇーい!!面白そう!!グレートだね!」
千葉が拳を突き上げる。
「面白くない!絶対面白くないから!というか危ない!万が一本当にいたらどうするの!?撃たれるかもしれないし、拉致されるかもしれないし!」
「その時は...友達になる!」
石川が親指を立てる。
「なれるわけないでしょ!!」
富山が叫ぶが、石川はすでに自分たちのテントサイトに向かって歩き出している。
テントサイトに戻ると、石川はキャンプ用の椅子を円形に並べている。中央には小さなテーブル。その上にはノートとペンが置かれている。
「座れ座れ!作戦会議だ!」
「もう準備してあったんだ!」
千葉が嬉しそうに座る。富山は渋々座る。
「まず、CIAの工作員の特徴を整理しよう」
石川がノートを開く。そこにはすでに箇条書きでメモが書かれている。
「一、常に周囲を警戒している」
「二、カバーストーリーが完璧すぎる」
「三、持ち物が高性能すぎる」
「四、不自然に単独行動」
「五、暗号めいた会話をする」
「六、体が鍛えられている」
「七、目つきが鋭い」
「すげー!完璧じゃん!これで見つけられるよ!」
千葉が興奮して身を乗り出す。
「見つけられないから!というかこれ全部映画の見すぎでしょ!」
富山が頭を抱える。
「で、このキャンプ場を見渡してみろよ。約三十組のキャンパーがいる。この中に必ず一人はいる!CIA工作員が!俺の直感がそう告げている!」
石川が立ち上がって、キャンプ場全体を指差す。その目は本気だ。
「よし、まずは遠くから観察だ!」
石川が双眼鏡を取り出す。千葉も自分の双眼鏡を取り出す。二人並んで怪しげに周囲を観察し始める。富山が深いため息をつく。
「あ!あそこのおじさん!めっちゃキョロキョロしてる!怪しい!」
千葉が興奮して指差す。指の先には五十代くらいの男性。確かにキョロキョロしている。
「おお、確かに!メモメモ!『サイトB-12、五十代男性、周囲警戒、容疑者ランクA』」
石川がノートに書き込む。
「あれトイレ探してるだけでしょ!今案内板見てるし!」
富山が冷静にツッコむ。
「いや、それもカモフラージュかもしれん!CIAはそういう演技が上手いんだ!」
「そうだそうだ!油断できない!」
千葉が頷く。
「ねえ、あそこのソロキャンパーの人!装備がやたら本格的じゃない!?あのテント、めっちゃ高そう!」
千葉が別の方向を指差す。三十代くらいの男性が一人、最新式のテントと高級そうなキャンプギアに囲まれている。
「おお!確かに!あのテント、五十万くらいするやつだぞ!一般人が買える値段じゃない!」
石川の目が輝く。
「それキャンプ雑誌で特集されてた新商品だから!普通に買えるから!ほら、これ!」
富山がバッグから雑誌を取り出して該当ページを開く。
「...富山、なんでそんなの持ってきてるの?」
「だって絶対こうなると思ったから!反論材料として用意してきたの!」
富山が疲れた表情で答える。
その時、石川の視界に不審な動きが入る。
「待て...あそこだ」
石川の声のトーンが変わる。千葉も同じ方向を見る。キャンプ場の端、少し離れた場所に張られたタープの下。三十代後半くらいの男性が一人、ノートパソコンに向かっている。スーツケース型の大きなケースが横に置かれている。時折、周囲を見渡し、またパソコンに視線を戻す。その動作は機械的で、まるで監視するかのよう。
「あれ...なんか本当に怪しくない?」
千葉の声が小さくなる。
「だろ!?あのスーツケース、絶対通信機材入ってるぞ!それにあの警戒の仕方、プロだ!」
石川が興奮して立ち上がる。
「ただのリモートワーカーでしょ!今ワーケーションって流行ってるし!」
富山が必死に否定するが、声に自信がない。確かに少し不審な雰囲気がある。
「よし、近づいてみよう!自然に話しかけるんだ!」
石川が歩き出そうとする。富山が慌てて袖を掴む。
「ちょっと待って!本当にCIAだったらどうするの!?」
「大丈夫大丈夫!僕たちはただのキャンパーだから!」
石川が富山の手を振りほどく。三人はゆっくりとその男性のサイトに近づいていく。石川は自然を装って鼻歌を歌っている。千葉は緊張した表情。富山は諦めた表情。
男性のサイトの前まで来ると、石川が声をかける。
「こんにちはー!いい天気ですねー!」
わざとらしいほど明るい声。男性が顔を上げる。鋭い目つき。短髪。引き締まった体格。
「...ああ、こんにちは」
低い声。警戒するような視線が三人を舐め回す。
「お一人ですか?いいですねー、ソロキャンプ!僕らもよくやるんですよー!キャンプ最高ですよね!」
石川が距離を詰める。男性が微かに後ずさる。その動きは訓練されたもののよう。
「そうですか」
短い返答。明らかに会話を続けたくない様子。パソコンの画面をさりげなく隠す。
「そのパソコン、何されてるんですか?お仕事ですか?」
千葉が無邪気に聞く。男性の表情が一瞬強張る。喉仏が動く。
「...仕事です」
「へー!どんなお仕事なんですか?」
「...IT関係です」
「具体的には?」
石川が畳み掛ける。男性の目が細くなる。
「企業秘密なので...」
「あ、そうですよね!すみません!でもそのスーツケース、かっこいいですね!何入ってるんですか?」
千葉がスーツケースを指差す。男性が素早くスーツケースを足で隠す。その動作は反射的。
「機材です」
「どんな機材ですか?」
「...パソコン関係の」
「あ、そうなんですね!僕もIT興味あって!どこの会社なんですか?」
石川がさらに詰め寄る。男性が立ち上がる。その動きは素早く、まるで臨戦態勢に入ったよう。
「あの、すみませんが...集中したいので...」
声に明確な拒絶の意思。額に汗が浮かんでいる。
「あ、そうですよね!すみません!邪魔しちゃって!」
富山が慌てて二人を引っ張る。石川と千葉を引きずるようにその場を離れる。
十メートルほど離れたところで、石川が振り返る。
「見たか!?めっちゃ警戒してた!絶対怪しい!あの反応、素人じゃない!」
「でしょ!?あの緊張感、普通じゃないよ!スーツケース隠したし!」
千葉も興奮している。
「いや、あれ単純に君たちが怪しいからでしょ!一般人があんな質問攻めにされたら警戒するに決まってる!」
富山が額に手を当てる。
「よし、他も調査しよう!まだまだこれからだ!」
石川が次のターゲットを探す。その目は獵師のよう。
次に目をつけたのは、カップルのサイト。二十代後半の男女が仲良くバーベキューの準備をしている。
「あれ、カップルに見せかけた工作員同士かもしれん!よくある手口だ!」
石川が真剣な表情で言う。
「それはさすがに...考えすぎでしょ...」
富山が反論しかけるが、石川はすでに動いている。
「こんにちはー!」
石川が明るく声をかける。カップルが笑顔で振り返る。
「こんにちは!」
感じの良い返答。ごく普通のカップルに見える。
「お二人は付き合ってどれくらいなんですか?」
千葉がいきなり踏み込んだ質問をする。カップルが顔を見合わせる。
「え、えーと...二年くらいですかね」
女性が答える。少し困惑した表情。
「へー!どこで知り合ったんですか?」
石川が畳み掛ける。
「大学のサークルで...」
「サークル名は?」
「え...テニスサークルですけど...」
「大学名は?学部は?何年生の時?最初に話しかけたのはどっち?」
石川が矢継ぎ早に質問する。
「...どうしてそこまで...?」
カップルが明らかに警戒し始める。男性が女性を庇うように前に出る。
「だから!君たち普通に不審者だから!」
富山が再び二人を引きずって離れる。カップルに深々と頭を下げながら。
「でもさ、答え方がスムーズすぎなかった?まるでリハーサルしてたみたいに!カバーストーリーだよあれは!」
石川が真剣に分析する。
「確かに!淀みなかったもん!」
千葉が頷く。
「普通だから!普通のカップルだから!君たちの質問が異常なだけ!」
富山が頭を抱える。
その後も石川と千葉の暴走は続く。
家族連れのサイトでは「お子さん、本当に実子ですか?養子を装った...」と聞きかけて、父親に「はぁ!?」と怒鳴られる。富山が土下座して謝罪。
ソロキャンパーの女性には「その焚き火台、実は暗号送信装置ですよね?」と真顔で言って、「は?何言ってるの?」と呆れられる。富山が「すみません、頭おかしいんです」と平謝り。
年配の夫婦には「長年連れ添ったように見せかけて実は工作員同士...」と言いかけて、妻に「あなたたち、何か悪いもの食べた?」と心配される始末。富山が「大丈夫です、いつもこうなんです」と力なく答える。
グループキャンプの若者たちには「この中に一人、スパイが紛れ込んでますよね?」と言って、「え?人狼ゲームの話?」と逆に盛り上げられる。
「やったね!理解者が現れた!」
千葉が喜ぶ。
「理解されてないから!勘違いされてるだけ!」
富山が叫ぶ。
そして極めつけは、釣りをしている男性に近づいた時だった。
「こんにちは!釣れますか?」
石川が声をかける。
「ああ、ぼちぼちだね」
男性が穏やかに答える。四十代くらい、優しそうな顔立ち。
「その釣り竿、高性能そうですね!」
「まあ、趣味だからね。少しいいやつ使ってるよ」
「へー!ちなみに何を釣ってるんですか?」
「ニジマスだね。この辺は結構釣れるんだ」
「ニジマス...虹鱒...レインボー...レインボーコード...暗号名ですね!?」
石川が突然叫ぶ。
「は?」
男性が困惑する。
「その釣り竿は実は通信アンテナで、魚を釣るふりをして情報を...」
「ちょっと待って、君たち何言ってるの?」
男性が釣り竿を置いて立ち上がる。
その瞬間、千葉が足を滑らせる。
「うわっ!」
千葉が男性のクーラーボックスにぶつかる。クーラーボックスが倒れ、中身が散乱する。氷、ニジマス、ビール缶、そして...
「あ」
石川、千葉、富山、そして男性が同時に声を上げる。
散乱した中に、明らかに釣り道具ではない物が混ざっている。黒い箱型の機器。アンテナがついている。
「これは...」
石川が目を見開く。
「あー...これは...えっと...魚群探知機!そう、魚群探知機だよ!」
男性が慌てて拾い上げる。しかしその動作は明らかに焦っている。額に汗が浮かぶ。
「魚群探知機にしては...アンテナの形状が...」
千葉が呟く。
「いや、最新式なんだ!最新式!」
男性が後ずさりする。
「ちょっと待って、あなたまさか...」
石川が詰め寄ろうとする。その瞬間、男性が突然走り出す。釣り道具もクーラーボックスも放り出して、全力疾走。
「逃げた!!」
「追うぞ!!」
石川と千葉が追いかける。富山が「ちょっと待って!」と叫ぶが、二人は聞いていない。
男性はキャンプ場を縦断して走る。その走り方は訓練されたアスリートのよう。石川と千葉も必死に追う。他のキャンパーたちが「何事だ?」と顔を出す。
「待ってください!話を聞かせてください!」
石川が叫ぶ。
「CIAなんですね!?本物なんですね!?」
千葉も叫ぶ。
男性はさらに速度を上げる。しかし、キャンプ場の出口で管理人と鉢合わせする。
「おっと、どうしました?」
管理人が男性の前に立ちはだかる。六十代くらいの温厚そうな男性。
「す、すみません!ちょっと急いでて!」
男性が管理人を避けようとする。しかし管理人は動かない。
「お客さん、何か問題でも?あの若い人たちに追われてますけど」
「いえ、その、誤解で...」
石川と千葉が追いつく。息を切らしている。
「管理人さん!この人、怪しいんです!クーラーボックスに変な機械が!」
千葉が説明する。
「変な機械?」
管理人が首を傾げる。
「魚群探知機だって言ってましたけど、明らかに違って...」
石川が言いかける。その時、富山が走ってくる。手に例の黒い機器を持っている。
「これでしょ!拾ってきたわよ!ほら、魚群探知機じゃない!どう見ても...」
富山が機器を掲げる。その瞬間、管理人の表情が変わる。温厚そうな顔が一瞬、鋭い表情になる。
「それは...」
男性も表情を変える。二人が視線を交わす。
石川がその視線の交換を見逃さない。
「...あれ?管理人さん、なんでこの機械のこと知ってるんですか?」
石川が鋭く問う。
「え?いや、知らないけど...」
管理人が動揺する。しかしその動揺の仕方が不自然。まるで演技のよう。
「さっき『それは』って言いましたよね?魚群探知機を見て『それは』って。なんで何か知ってる前提なんですか?」
石川の目が細くなる。探偵モード全開。
「いや、それは...その...」
管理人が後ずさりする。
「そういえば、管理人さん、このキャンプ場に赴任してどれくらいなんですか?」
千葉も詰め寄る。
「さ、三年ほど...」
「三年?でも僕たち、五年前にもここ来てますよ?その時の管理人さん、あなたじゃなかったですよね?」
石川が畳み掛ける。
管理人の額に汗が浮かぶ。
「それは...前任者が...」
「前任者の名前は?」
「え...それは...」
「答えられないんですか?」
石川がさらに詰め寄る。その瞬間、管理人が突然動く。素早い動作で富山の手から機器を奪い取り、走り出す。
「やっぱり!!」
石川が叫ぶ。
「管理人がCIAだった!!」
千葉も叫ぶ。
管理人は驚くべき速さで走る。六十代とは思えない俊敏さ。駐車場に向かって全力疾走。
「待て!!」
石川たちが追う。釣りの男性も呆然と立ち尽くしている。
管理人は駐車場の黒い車に飛び乗る。エンジンをかける。
「やめて!行かないで!サインください!」
千葉が叫ぶ。
「サイン!?」
富山がツッコむ余裕もなく、三人で車を追いかける。しかし車は急発進し、あっという間にキャンプ場を出て行く。砂埃だけが残る。
三人は呆然と立ち尽くす。
長い沈黙の後、石川がゆっくりと振り返る。
「...いたじゃん」
「いたね」
千葉も呆然と頷く。
「本当に...いた...の...?」
富山が信じられないという表情で呟く。
キャンプ場は騒然としている。他のキャンパーたちが集まってくる。
「何があったの?」
「管理人さんどこ行った?」
「警察呼んだ方がいいんじゃない?」
口々に質問が飛ぶ。
「えっと...管理人さんは...その...急用で...」
富山が適当に誤魔化そうとする。
「CIA工作員でした!本物!」
石川が堂々と答える。
「...は?」
キャンパーたちが唖然とする。
「いや、本当なんです!あの機械も...」
千葉が説明しようとするが、富山が口を塞ぐ。
「すみません!ちょっと興奮しちゃって!気にしないでください!」
富山が頭を下げまくる。
その夜、三人はテントの中で焚き火を囲んで座っている。誰も言葉を発しない。ただ炎を見つめている。
「...夢じゃないよね?」
千葉がぼそりと呟く。
「夢じゃない。確かに管理人は逃げた」
石川が答える。その声には実感がこもっている。
「信じられない...本当にCIAがいたなんて...」
富山がため息をつく。
「俺たち、すごいこと見つけちゃったんじゃない?」
千葉が不安そうに言う。
「大丈夫だろ。僕らはただのキャンパーだし。何も知らないことにしておけば」
石川が落ち着いた声で言う。
「そうだね...何も見なかった、何も聞かなかった...」
富山が頷く。
三人は再び沈黙する。炎の音だけが響く。
「でもさ」
石川が突然言う。
「なんか...ワクワクしない?」
「え?」
千葉と富山が顔を上げる。
「だって、本物のCIA工作員を見つけたんだぜ?『俺達のグレートなキャンプ』史上、最大の成果じゃん!」
石川の目が輝き始める。
「確かに!すごいよね!本物だったんだもん!」
千葉も笑顔になる。
「ちょっと、まだそんなこと言ってるの?危ないかもしれないのに...」
富山が呆れるが、その口元は少し緩んでいる。
「次は何探そうかな。KGB?モサド?」
石川が楽しそうに言う。
「もうやめて!スパイ系は!」
富山が叫ぶが、笑っている。
三人の笑い声が静かな夜のキャンプ場に響く。焚き火の炎が三人を照らす。今日の出来事がまるで嘘のように、穏やかな時間が流れる。
翌日、三人はキャンプ場を後にした。代理の管理人が来ており、「前任者は急に辞めた」とだけ説明された。それ以上は何も聞かなかった。
三日後
石川がスマートフォンを見ている。LINEの通知。千葉からだ。
『最近キャンプにいってないなあ。次、いつ行くんです?』
石川が固まる。スマートフォンを見つめたまま、動かない。
「...え?」
声が震える。
横に座っている富山が不思議そうに覗き込む。
「どうしたの?」
「...千葉から連絡」
石川がゆっくりと顔を上げる。
「うん、それがどうかした?」
富山が首を傾げる。
「最近キャンプ行ってないって...」
「は?」
富山の表情が変わる。
「一昨日、行ったばかりじゃない!?」
「だよな!?おかしいよな!?」
石川の手が震える。
「ちょっと、電話してみて」
富山が促す。石川が震える手で千葉に電話をかける。
『もしもし?石川さん?』
「千葉...今どこにいる?」
『え?家ですけど。どうしたんですか?』
「家...?一昨日のキャンプ、覚えてる?」
『一昨日?何言ってるんですか?僕、先週から風邪引いて寝込んでたんですよ。だから最近キャンプ行けてないなって』
石川と富山が顔を見合わせる。顔が蒼白になる。
「待って...じゃあ、一昨日のキャンプに来てた千葉は...」
『一昨日のキャンプ?石川さん、富山さんと二人で行ったんですか?』
「いや、千葉も一緒に...」
石川の声が途切れる。
富山が慌ててスマートフォンで写真を開く。キャンプの写真をスワイプしていく。
焚き火の写真。テントの写真。景色の写真。
そして、三人で撮ったはずの写真。石川と富山はしっかり映っている。
でも三人目の部分だけ、不自然にぼやけている。人の形はあるが、顔がまったく判別できない。
「...嘘でしょ」
富山の声が震える。
「富山?何見てるの?」
電話の向こうで千葉の声。
「千葉...あなた、本当に家にいるのよね?」
『はい?何言ってるんですか?もちろんですよ』
石川がもう一度写真を見る。確かに三人いる。でも三人目は誰だ。
「あの時、一緒にいたのは...」
二人が呟く。
その時、石川のスマートフォンに新しいメッセージが届く。知らない番号から。
『楽しい時間をありがとう。CIA工作員を見つけるゲーム、面白かった。また会おう。-C』
石川のスマートフォンが手から落ちる。
「CIA...」
「成り代わってた...?」
富山の声も震える。
電話の向こうで千葉が心配そうに聞く。
『二人とも、どうしたんですか?何があったんですか?』
石川と富山は顔を見合わせる。
「千葉...次のキャンプ、しばらく延期しよう」
『え?どうしてですか?』
「説明は...後で」
電話を切る。
二人は呆然と立ち尽くす。
「ねえ、石川」
「なに」
「あの時の『千葉』、めっちゃ楽しそうだったわよね」
「...うん」
「全部、私たちに付き合ってくれたのよね」
「...うん」
二人は再び沈黙する。
「信じられない...」
富山が頭を抱える。
「本当にいたんだ...CIA」
石川も呆然と呟く。
その時、遠くから誰かが笑う声が聞こえた気がした。
あるいは、風の音だったのかもしれない。
でも二人には、確かに聞こえた。
「See you next camp...」
石川と富山は顔を見合わせる。
「もう...スパイ系の企画はやめよう」
「賛成...」
こうして『俺達のグレートなキャンプ』第二百三十六回は、とんでもない後日談を残して幕を閉じた。
本当にあの『千葉』はCIA工作員だったのか。
それとも全ては何かの間違いだったのか。
真相は闇の中。
ただ一つ確かなのは、石川はしばらくスパイ系の企画を封印することにした、ということだけだった。
数日後、本物の千葉が回復して三人で会った時、あの日の話をした。
「え!?僕の代わりにCIAが!?」
千葉は大興奮だった。
「次は僕も行きたい!もう一回やりましょうよ!」
「絶対やらない!!」
石川と富山が同時に叫んだ。
「じゃあ次は妖怪探しにしましょう!」
千葉が提案する。
「それも怖い!!」
二人が再びツッコんだ。
結局、次のキャンプは普通の料理対決になった。
それでも石川は時々、あの日の『千葉』を思い出す。
本当に楽しそうだったな、と。
そして密かに思う。
『俺達のグレートなキャンプ236 CIAがキャンプ場にいるって!よし見つけよう』 海山純平 @umiyama117
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