第1話 剣を掲げ、配信を始めよ
Vtuberというのは、企業の箱があれば箱による視聴者数のバフがついたり、グループでもその恩恵が受けられたりするものだ。一方で個人勢というのは自分一人だけで実力を示し、人と関わることが重要視されている。
俺、鬼威 鉄牙は物騒な名前をしているが本名だ。活動名はクロガネといい、騎士のような風貌をしている。
配信を始めたきっかけは単純明快。ただ推しがVtuberだった。ただそれだけだ。
今日も今日とて配信するためにサムネを作り、ダンジョンに向かっている。今日がダンジョンで配信するのは初めての挑戦だ。流石にダンジョン内ではV体を使うわけにもいかず、生身を出さなければいけない。騎士のような鎧を探すのにも手間がかかった。
今日挑戦するダンジョンは、巨人の砦と言われるダンジョンで探索者の中でも限られた人物しか入ることができないため、コンテンツとしていいのではと思ったのだ。
限られた人物しか入れないダンジョンに入れるとは何事か。嘘ではないか?と炎上気味たバズをかましたのが数時間前の話だ。そろそろ配信を始める...
———配信開始———
「剣を掲げよ、諸君。
この配信は、我が刃が折れるまで続く。
――騎士系VTuber、クロガネ。只今より出陣だ。」
同接数は驚異の数万越え...とはいかず、同接数は10人程度。いつもの常連の方々だ。こんクロ〜とコメ欄に挨拶が増える。
「今日は初のダンジョン配信ということで、巨人の砦に来ている。」
と言うと、やはりというかなんというか、嘘だ。冗談だ。などと言ってくる。
「冗談ではないぞ?ほれ。」
と、カメラをエネミーに向ける。ソレは巨大な異形だった。かつて大きな災害を起こすとまで言われたダンジョン。巨人の砦がそこにはあった—。
エネミーは人の都合なんてお構いなしに手に持つ巨大な棍棒を振り翳してくる。
コメ欄は一瞬で取り乱したようにクロガネを心配して、逃げろだの言ってくれる。
だが、そもそも巨人の砦の入り口には警備員が配置されていて、入るためには探索者証を見せなければならないのだ。そこを通ってきているクロガネにはなんの心配も要らなかった。軽そうなロングソードを一閃。
———スパッ
心地の良さげな音がダンジョンに響く。視聴者たちは一瞬何が起こったのか理解できなかった。クロガネが剣を振ると同時に、あの巨大な異形はサイコロ状に細切れになっていた。あの大きな体が小さなサイコロになる光景は、到底理解できるものではなく、コメ欄は興奮の嵐に見舞われた。
「落ち着け諸君。ここからは、我が剣の真髄を見せてやろう。」
個人勢Vtuberクロガネの同接人数は、すでに5万人を超えていた。そのなかには数々の強者もいたが、誰もクロガネを侮はしない。なぜなら彼は—超人と呼ばれるに相応しい人間だからだ。
———かくして、クロガネは巨人の砦を一人歩き始める。
巨人の歩く音すらかき消すような威圧を画面越しに感じながら。
憧れた物語~憧れから始まるVtuber黄金記~ @ookamiwanwan
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