番外編3: 真鍮の火花と、警鐘

カイルの「勝利宣言」に背中を押されるようにして、三人はバートの工房へと忍び込んだ。

夕暮れ時の工房は、冷えた鉄の匂いと油の香りが立ち込めている。ゼノは慣れた手付きで小さな炉に火を入れると、棚の奥からくすんだ黄金色の板を取り出した。


「真鍮だ。磨けば金みたいに光るが、中身はもっと粘り強くて硬い。……カイル、お前みたいな奴にぴったりだろ」


ゼノは板を三つの円形に切り出し、炉の火で真っ赤に熱していく。

カイルが一生懸命にふいごを動かし、ミリアが火の粉を避けるようにしてその横で見守る。

やがてゼノは、赤く焼けた真鍮を金床の上に置き、重い槌を振り下ろした。


カン、カン、カン!


静かな工房に、小気味よい音が響く。

その音に合わせて、ゼノがポツリと語りだした。


「……カイル。お前が兵士になるってんなら、一つだけ約束しろ。城にある『エーテル』の武器には、あんまり頼りすぎるな」


ミリアが不思議そうに首を傾げた。


「どうして? エーテルは神様の恵みでしょ? お父様も、あれがあるからこの国は平和なんだって……」


その言葉を聞いた瞬間、ゼノの手が止まった。

赤い瞳が、炉の炎に照らされて鋭く光る。


「『恵み』……。王宮の連中は、そう呼んでるのか。……ミリア、俺の両親が死んだ時。表向きは『火災』ってことになってるが、あれは嘘だ。じいさんが見たんだよ。工房の地下を通ってるエーテル管が、制御不能になって、親父たちの命をごっそり吸い取っていったのをな」


ミリアとカイルが息を呑む。ゼノが自分の両親のことを話すのは、これが初めてだった。


「エーテルは、ただの光じゃない。あれは『何か』の命を削って無理やり引き出した力だ。強すぎる光は、必ず影を作る。……じいさんは言ってた。エーテルに依存すればするほど、人間は自分の腕を信じなくなり、最後にはその力に食いつぶされるってな。だから俺は、あんな得体の知れない魔法もどきは使わねえ。自分の手で叩いたモンだけを信じる」


ゼノは再び槌を振るった。

今度はより強く、何かに抗うような激しい音だった。


「カイル。お前が本当の騎士になりたいなら、エーテルの出力に頼るな。自分の筋力と、その使い古した木剣の重さを信じろ。……神の力なんて借りなくたって、俺たちが作ったこの護符があれば、お前は死なねえ。俺がそう作ってやる」


ゼノの言葉には、子どもの言葉とは思えない重圧と、深い憎しみ、そして二人を失いたくないという必死な願いがこもっていた。やがて、三つの護符が形を成した。ゼノはミリアにタガネを渡し、真ん中に「星」を刻ませる。


「……できた。俺たちの『歯車』と『剣』、そして真ん中にはミリアの『星』だ。いいか、これが三つ揃ってる限り、俺たちは一人じゃない」


カイルは完成したばかりの、まだ温かい護符を握りしめた。


「わかったよ、ゼノ。僕、エーテルには頼らない。自分の腕で、君たちがくれたこの護符に恥じない騎士になる」


ミリアも自分の胸に護符を当て、静かに誓った。


「……エーテルが、ゼノの両親を奪ったなんて知らなかった。私、もっと勉強するわ。お父様が隠してること、この国の本当の姿を……」


月明かりが差し込む工房。まだ何者でもなかった三人は、真鍮の鈍い輝きに、それぞれの「真実」を刻みつけた。それが、崩壊へと向かう王国の運命に抗うための、最初の一歩になるとも知らずに。

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