番外編2:小さな騎士の誓い

下層街の外れ、草の生い茂った空き地。そこは、3人にとっての遊び場だった。


「ほらほら! どうしたのカイル、もうおしまい!?」


ミリアが声を弾ませながら、訓練用の木剣を鋭く振り下ろす。

カイルは必死にそれを防ぐが、ミリアの容赦ない連撃に足元がふらついていた。

幼い頃から訓練場に忍び込み、騎士たちの動きを見て盗んできたミリアの剣筋は、大人顔負けの鋭さがある。


「くっ……まだまだ!」

「あはは、口だけは威勢がいいんだから!」


ミリアがわざとらしく木剣を回して、カイルを煽るように笑う。

少し離れた場所で、壊れた蓄音機の部品をいじっていたゼノが、顔を上げずに声をかけた。


「おいおい、ミリア。あんまりカイルをいじめてやるなよ。こいつ、これでも毎日じいさんの工房の裏で素振りしてんだからさ」

「えっ、そうなの? ……でも、勝負は別よ。ほら、カイル、次で決めるわよ!」


ミリアが踏み込み、今日一番の鋭い突きを放つ。

いつもなら、カイルはここで尻餅をついて負けてしまう。けれど、この日のカイルは違った。

ミリアの瞳が銀色に輝きかけたその瞬間、カイルの集中力が極限まで高まる。


(……来る!)


カイルは目をつぶらず、ミリアの剣筋を見切った。

半身を引いて突きをかわすと、ミリアの勢いを利用して、その手首を軽く叩く。


「あ……っ!」


ミリアの木剣が手から離れ、カサリと草の上に落ちた。

次の瞬間、カイルの木剣の先が、ミリアの喉元でぴたりと止まる。

静寂が流れた。ゼノが作業していた手を止め、目を見開く。


「……僕の、勝ちだ」


カイルが肩で息をしながら、静かに、けれど力強く告げた。

ミリアは呆然としていたが、やがて顔を真っ赤にして、負け惜しみのように叫んだ。


「な、なによ今の! たまたまよ、たまたま! 次は負けないんだから!」

「……ううん。たまたまじゃないよ」


カイルは剣を引き、真っ直ぐにミリアを見つめた。その瞳には、今までになかった強い決意の光が宿っていた。


「僕……決めたんだ。兵士になろうと思う」

「え……?」

「兵士になって、一生懸命訓練して、国一番の兵士になる。……それで、いつか、いつか絶対に! 王国直属の騎士になって、ミリアを守るよ」


いつも自分に助けられてばかりだった泣き虫のカイル。

その彼が、自分を守ると言った。

それは子供の「ごっこ遊び」の台詞ではなかった。


「……へえ。王国一、ね。お前みたいな臆病者がどこまでやれるか、見ものだな」


ゼノがニヤリと笑い、腰を上げた。


「だったら、お守りが必要だな。……じいさんに内緒で、最高のやつを作ってやるよ。ミリア、お前も手伝え。カイルが途中で逃げ出さないように、ガレット家の呪い……じゃなくて、護符を刻み込んでやるからな」


夕暮れの光が、三人の影を長く伸ばす。カイルの初めての勝利と、あまりにも真っ直ぐな誓い。

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