たぬきの書きかえ屋さんと、うさぎのまほうの手
@princekyo
たぬきの書きかえ屋さんと、うさぎのまほうの手
深い森の奥、大きなクヌギの木の下での物語です。
兎のらんらんは、いつも悲しそうに自分の両手の肉球を見つめていました。彼女は、自分の手のひらに刻まれた手相が、世界で一番不幸な形をしていると思い込んでいたのです。
「私の手相は、まるで複雑な迷路みたい。どこを辿っても、最後には行き止まりの寂しさにたどり着いてしまう」
らんらんはそう呟いて、大切な手のひらを誰にも見られないように、ぎゅっと固く握りしめて暮らしていました。拳を作って丸まって歩く彼女の姿は、まるで小さな雪玉が転がっているようでした。
そこへ、ひょろりと背の高い、少し目つきの鋭い狸のぽんぽんがやってきました。ぽんぽんは、首から一本の古い万年筆をぶら下げています。彼は動物たちの手相を見ては、その万年筆で不思議な線を書き加える、風変わりな書き換え屋でした。
「なあ、あんた。そんなに手を握りしめてたら、中に閉じ込めた空気がかわいそうやんか」
ぽんぽんは、ぶっきらぼうな声で言いました。らんらんは顔を上げず、耳を伏せて首を振りました。
「見ないで。私の手の中には、不幸の種がいっぱい詰まっているの。見せたら、あなたにまでうつってしまうわ」
ぽんぽんは構わず、らんらんの隣に腰を下ろしました。そして、長い指先で彼女の手首を優しくトントンと叩きました。
「不幸の種なんて、土に植えたら花が咲くかもしれん。ちょっと見せてみ」
らんらんがおずおずと手を開くと、そこには細かくて鋭い線が、複雑に絡み合っていました。それを見たぽんぽんは、ふっと鼻を鳴らして笑いました。
「これはすごいな。まるで、これから幸せを捕まえるための網やんか。でも、ここだけ出口が足りないな」
ぽんぽんは万年筆のキャップを外すと、らんらんの白い手のひらに、鮮やかな青いインクで一本の線を引きました。それは、絶望の迷路を突き抜けて、外の世界へと向かう、力強い、笑った口元のような曲線でした。
「はい、これでよし。この青い線はな、君が誰かと手をつなぎたくなった時に光る魔法の線や」
らんらんは、自分の手のひらに描かれた新しい線を見つめました。青いインクが柔らかな毛並みにじわりと馴染んで、冷たかった手のひらが、ほんのり温かくなったような気がしました。
「ねえ、ぽんぽん。もしこのインクが消えてしまったら、私はまた迷路の中に戻ってしまうの?」
らんらんが不安そうに尋ねると、ぽんぽんは立ち上がり、ふさふさの尻尾を揺らして歩き出しながら答えました。
「消えたら、また俺が書いたる。でもな、次に見る時は、その青い線が君の本当のシワになってるはずや。手相なんて、心の持ちよう一つで、いくらでも書き換わるもんやから」
らんらんは、もう手を握りしめるのをやめました。青い線が描かれた手のひらを木漏れ日にかざすと、そこには今まで気づかなかった、柔らかな光が溜まっていました。
たぬきの書きかえ屋さんと、うさぎのまほうの手 @princekyo
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