アンチ・ウィッチ

甘袮ちはる

第1話 消滅の魔女

「……ここでいっか。広くて周りがよく見えるし」

 

 紅竜が十頭、上空を飛んでいる。

 

 この国では竜は大災害だ。魔獣の中で最上位に位置する竜は「一頭現れれば五百人は死ぬ」と言われるほどの力を持つ。

 

 紅竜は竜種の中でも最弱ではあるがそれでも人が勝ることは到底現実的ではない。


「杖、顕現」


 この世界は魔法の世界だ。人は生まれ持つ魔力を杖を媒介にし、魔法として扱う。


「ニア、『呪い』は使わないのか?」


 喋るカラスが気を散らすように話しかけてくる。


「私の呪いは街の上を飛んでる竜と相性が悪い。最悪、人を巻き込むかもしれない」


 魔法には大きく分けて二種存在する。人類が皆使える、魔力を消費して人外的な力を発する『魔法』と極稀ではあるが、生まれつき脳に刻まれる『呪い』。呪いは言わばユニーク魔法であり、誰もが使える魔法とは違う。その本人にしか扱えない特別な魔法で、呪いを持って生まれる確率は五百万人に一人と言われている。


「『風系統最上位魔法アンピプテラ』」


 紅竜が飛ぶ上空のさらに上に小さな街は覆えてしまえそうな巨大な魔法陣が出現した。


 その魔法陣から解き放たれる風の刃は無慈悲にも紅竜体を切断した。一撃で首を落とされる竜もいれば即死はしないが体の一部の破損した竜も全てを避けた竜もいる。


「やばいぞ!ニア!今死んだ奴が街に──」


「『毒系統最上位魔法ヒュドラ』」


 まだ降り続ける風魔法と共に体を蝕む毒魔法が撃ち込まれる。いくら竜とは言えど二種の最上位魔法に即座に対応は不可能。


「『物を引き寄せる魔法アットラホ』」


「な!?」


 動かなくなった竜の死骸がニア・ヴァニッシュの足元に転がった。


「これで仕事終わりかな。バレットさんに連絡しなきゃ」


 ニアは『遠くと通信する魔法リガーレ』を発動し、連絡を取りながら死体の山から降りていく。


 カラスのルクスは口が開いたまま塞がらない。


 ルクスのように人と話すことができる知能を持ち、人と共存する存在を魔従者と呼ぶ。


 ニアの魔従者として初任務であった彼が目にしたのは一人の少女に玩具のように扱われ、殺される竜だった。


「これが『十賢聖じっけんしょう』の力…」


 世界中で特に優れた魔法使いは大魔道士とも呼ばれ、尊敬される。が、さらにその上に位置する十賢聖と呼ばれる十人が存在する。


 十賢聖。魔法や呪いを極め、人の領域に収まらなくなった者達の為に作られた立場。これらの者には一人ずつ異名を与えられる。そして、その十賢聖が一人。最年少でその立場に足を置いた人間。ニア・ヴァニッシュの異名は──。


「『消滅の魔女』」

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