バイク乗りと記憶

@chacco

第1話

 動機などは覚えていない。気付けばバイクに乗っていて、人生の中心に位置していた。

強く印象に残っているのはバイクは人生で初めて自分に自由を与えてくれたという事だった。

 とある十代の少年は感じていた。「何かを成し遂げねば」と強く心から思った。それは実に間抜けで、考えの足らない思い付きであった。10月も終盤、外の気温も風もだんだんと冬を感じさせる時期であった。少年は週末、夜中に友人一人を誘い灯台に行こうと言い切った。身体の芯まで冷え切り、寒さを超え痛さにまでなる冬の山の風はどれだけ着込んで厚くした服も突き刺し、真っ暗な峠道は足がすくむほど恐怖を感じた。東京の端から千葉の端まで目指そうなんて、ましてや準備も碌にせずにバイクに跨り、所持品はたった二千円と隠れて吸っていた煙草だけだった。

 闇を抜けても闇、その闇を抜けてもまた更に闇が深まるばかり。下道でゆっくり流しながら友人とバイクを走らせ約7時間ほど。進んでいくうちにだんだんと後に引けなくなりたちまち少しは後悔するようになる。街の風景など見えたものではなく気付けば潮の匂いを感じて酷く長い旅路の末、銚子に到着した。眩しいほどに燦然と輝く灯台の光は、「成し遂げた」と言えるほどの強さを持っていた。

 少年は凍えながらタバコを咥え納得していた。「この自分がやり遂げた」と灯台の光に照らされ吃驚していた。

 そして日の出となる。ゆっくりと照らされ太陽の温かみに包まれ、優しさを理解する。芯まで冷え切った身体がじわじわと解凍されていくように思えた。

 少年はすでに心身共に疲弊していた。また同じ長い道を通るのか、と落ち込んでいたが予想とは裏腹に横を通り過ぎる風景は写真や絵画などとは比べ物にならない彩りと豊かさをしていた。行きは暗闇で恐怖だった道が今は太陽に照らされ向こうの山まで見える。そして実感する。これほどまでに長く、そして美しい道だったのだと。手は痺れ足は膨れ上がり耳は真っ赤に。寒さで感覚などとうに忘れ今は不快なバイクの振動も慣れてしまった頃。見慣れた道へ戻ってくる。そこから家までの記憶はない。気付けば駐輪場に戻っていて友人とも語る事なく別れの挨拶をし帰宅した。気絶するように寝入り起きた時は次の日の昼だった。

 そして思い出した。バイクで何時間も走らせ、成し遂げ、達成したと。少年は満足していた。なんでもよかったのだ。自分が納得する答えが欲しくて、自分で探しに行った。

それだけでよかったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バイク乗りと記憶 @chacco

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ