猫の手を借りたい。
子猫
プロローグ
「猫の手も借りたい。」
忙しさに追われた人間が、冗談めかして使う言葉だ。
言葉通り、猫の「手」を借りたいわけではない。誰もがそう理解している。
ただでさえ、猫の手は頼りないものなのに、ましてや「手」だけを渡されても困るだけだ。
けれど、私にとってその言葉は、少し違う響きを持っていた。
もし、私が猫の助けではなく、「手」自体を借りられるのなら……
役に立たなくてもいい、器用でなくてもいい。
ただ「自分のものではない手」を、少しの間だけ。
私は、自分の左手を受け入れられない。
触れれば、そこにあると意識すれば、
それが自分の身体であることが、どうしても耐えられなくなる。
だから思ってしまうのだ。
猫の手でもいい。誰かの手でもいい。
私のものではない手を、借りられたなら、と。
冗談のはずの慣用句は、いつの間にか、
私にとって現実に近い願いへと変わっていた。
そしてその願いは、
思っているよりもずっと静かに、
思っているよりもずっと不釣り合いな形で、
目の前に現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます