『結婚の条件』

香森康人

『結婚の条件』

  人生の中で頭をフル回転させなければならない機会というのはたしかに存在する。その最たる例が結婚する時だ。これは、是非まだ結婚してない方に読んでいただきたいお話です。もう既に結婚してる人は、残念ですが手遅れですので諦めて下さい。


「結婚しよう」

 誰しも夢見るこのフレーズ。こんな素敵な愛の結晶のような言葉は他にないし、それを言われた時(言った時)の場面は心の一番奥深くに刻まれて生涯忘れられないものになる。

 でも、この時に頭を空っぽにしてボーッと馬鹿みたいに「はい」と安易に答えてはいけないのだ。絶対に。一瞬にしてギアをトップに入れて考えなくてはならない事がある。

 それは、結婚の条件である。

 これを言えるのは後にも先にもこの時しかない。予め用意しておくのが一番いいが、そうでなかったらすぐには思いつかないだろう。

 なので、取りあえず下の定型文を言って時間を稼いで欲しい。

「ちょっと待って、もちろん嬉しいんだけど、結婚するには条件があるの」

「条件? 条件って何?」

 まずは相手のこの言葉を引き出そう。相手がこの言葉を言ってくれば、相手は結婚の条件を用意してこなかったお馬鹿さんであることが分かる。それはつまり結婚後に一つ確実にこちらが有利に立ち回れるということだ(未婚の人は信じられないかも知れませんが、結婚するとそういう些細な事がとっても大事になります)。

 相手が戸惑ってる間にこちらは一生懸命考える。でも、皆さんはそんな緊張した場面で急に思いつかないよと心配になる事だろう。なので、下のような考える手順を用意したので利用してほしい。

①趣味で絶対に譲れない事はないか?

②自分の親と将来同居する可能性はあるか?

③相手に絶対して欲しくない習慣はあるか?

 だいたい上の3つを冷静に順番通り辿ってくれれば自ずと答えは出るので、個々人で考えてもらいたい。

 僕はもちろん言った。結婚する時にしっかりと言った。ドラムも太極拳も絶対に続けたいと。奥さんは言った、「うん、趣味は大事だから是非続けなよ」と。

 結論から言えば、太極拳は結婚して次の年に却下されて、ドラムは子供が生まれた時にボツにされた。いまは、残った小説の趣味を粛々とこなすしかないわけである。

 皆さんは、是非失敗のないようにしてもらいたいと切に願います。僕は一体何を間違えたのかまだ分かりません。


終わり

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『結婚の条件』 香森康人 @komugishi

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