積極勇者

茶電子素

第1話 勇者、放課後に魔族少女を泣かせる

十七歳。王立学園の二年生。

肩書きは勇者。

……といっても、別に世界を救った実績があるわけじゃない。

生まれつき魔力が規格外だったせいで、

王様に「お前、勇者ね」と軽く任命されただけだ。


そんな俺――ライト・アークライトは、今日も授業を終えて寮に戻る途中だった。


「はぁ……また魔族討伐の課題レポートか。俺、魔族好きなんだけどな」


本気で言っている。

人族の女子より魔族の女子の方が圧倒的に好みだ。

角とか尻尾とか、あの異種族特有の雰囲気がたまらない。

むしろ付き合いたい。

できればハーレムを築きたい。

勇者の肩書きはそのためにあると言っても過言ではない。


そんな俺の前に、突然、黒い霧が立ち込めた。


「……え?」


霧の中心に、小柄な少女が立っていた。

黒髪、薄紫の瞳、腰の後ろから小さな尻尾。

どう見ても魔族。

しかも――可愛い。


「ひっ……! あ、あの……ゆ、勇者ライトさん……ですよね……?」


声が震えている。

俺の好みど真ん中の魔族少女が、なぜか怯えながら俺を見上げていた。


「そうだけど。君は?」


「わ、私は……ミラ……ミラ・ノクターン……です……」


名前を言うだけで涙目になっている。

なんだこの子。守りたい。


「ミラちゃん、どうしたの? 迷子?」


「ち、違います……! わ、私は……あなたを誘惑しに……じゃなくて……その……!」


誘惑?

え、俺、今、誘惑されてるの?


「え、俺のこと好きなの?」


「ち、違っ……! 違いますけど……違わないというか……任務で……その……!」


任務で誘惑ってどういうことだ。

魔族の文化は奥深いな。


「とりあえず落ち着こう。ほら、座って」


近くのベンチを指さすと、ミラはビクッと肩を震わせた。


「す、座るんですか……? 二人で……?」


「うん。話したいし」


「ひぃ……!」


なぜ悲鳴。

俺、そんなに怖い顔してるのか?


とりあえず距離を詰めてみる。

魔族の子は近くで見るとさらに可愛い。

角の根元がほんのり赤くなっているのも良い。


「ミラちゃん、俺、魔族の子好きなんだよね」


「えっ……えええっ……!?」


ミラは顔を真っ赤にして、尻尾をバタバタさせた。

可愛い。

本当に可愛い。


「だから、誘惑とかしなくても、普通に仲良くしたいんだけど」


「な、仲良く……!? ゆ、勇者と魔族が……!? そ、それは……!」


「ダメ?」


「だ、ダメじゃ……ないですけど……! むしろ……その……!」


ミラは両手で顔を覆い、耳まで真っ赤にして震えていた。

どう見ても任務どころじゃない。


「で、誘惑って具体的に何するつもりだったの?」


「そ、それは……あの……色仕掛けとか……距離を詰めて……甘い声で……」


「やってみてよ」


「む、無理です!!」


即答だった。

涙目で首を振るミラがあまりにも可愛くて、俺はつい笑ってしまった。


「じゃあ逆に、俺が距離詰めていい?」


「えっ……? えっ……?」


ミラの瞳が揺れる。

拒否しているようで、拒否しきれていない。

この反応、完全に脈アリだ。


俺はそっとミラの隣に座り、肩が触れるくらいまで近づいた。


「ミラちゃん、いい匂いするね」


「ひゃっ……!? ちょ、ちょっと……近い……!」


「嫌?」


「い、嫌じゃ……ないですけど……! 心臓が……死にます……!」


死なないでほしい。

でも可愛い。


「ミラちゃん、俺と仲良くしたい?」


「し、したいです……! したいですけど……任務が……!」


「任務より俺との時間を大事にしてくれたら嬉しいな」


「だ、大事……かもしれません……!」


完全に落ちてるじゃん。


そのとき、ミラの胸元から小さな魔石が光った。

通信魔法だろう。


『ミラ、状況はどうだ? 勇者を誘惑できたか?』


低い男の声が響く。

ミラは慌てて魔石を握りしめた。


「む、無理です……! 勇者が……思ったより……積極的で……!」


『積極的……? どういう意味だ』


「ち、近いんです……! 距離が……! 心臓が……!」


『……お前、泣いてないか?』


「泣いてません……! 泣いてませんけど……涙は出てます……!」


ミラは俺をチラッと見て、さらに真っ赤になった。


『ミラ、任務を続行――』


「む、無理です!! 今日は帰ります!!」


ミラは魔石を切り、立ち上がった。

尻尾が完全にパニック状態で揺れている。


「ライトさん……! また……会ってもいいですか……?」


「もちろん。むしろ会いたい」


「ひゃあああああ……!」


ミラは顔を覆いながら黒い霧に包まれ、消えた。


残された俺は、しばらくベンチでぼんやりしていた。


「……魔族の子、最高だな」


これが、俺と魔族少女ミラの最初の出会いだった。

そしてこの日を境に、

魔族側から次々と“別タイプの刺客ヒロイン”が送り込まれてくることになるのだが――

その話は、また次の機会に。

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