クロスバディ・クライシス ~本編開始前の鬱エロゲで、オレは最推しヤンデレヒロインに溺愛される~

三毛猫みゃー

第1話

『……ザッ』


 うるさい。


『……ヤ……起……』


 うるさい。右腕を上げて手探りで目覚まし時計を探すが見つからない。


『トウ……逃げ……』


 腕を動かしたことで全身に痛みが走る。寝違えたかもしくはベッドから落ちたか? それにしても体が痛い。さっきから聞こえている音は目覚ましのアラームではない? 体だけではなく頭も痛い。どこだここは?


「ゲホッ」


 呼吸をしようとしたところで咳き込んだ。口の中に嫌な味が広がる。血の味だ。


『トウヤちゃん! よかった生きていた』

「あ、ああ」


 目を開くと視界が真っ赤に染まっている。目が痛い。額に手を当てるとズキリと痛みが走る。どうやら頭を何かで切ったようだ。視界が赤いのは血が目に入ったからだろう。


「ここは」


 額とまぶたを袖で拭うと視界が開ける。体はベルトで座席に固定されている。血を拭ったことで開けた視界に映ったのは見覚えのある機械で覆われた棺桶。一人で操縦するには不自然なほどに広い空間。足元と背後以外にあるモニターには外の景色が映し出されている。


 ノイズ混じりのモニターに映し出されている映像に自然と目が行く。そこに映し出されているのは崩れたビルの残骸に煙と炎。そして見覚えのある敵、バグズと呼ばれる機械生物。バグズの見た目は生物と機械が混じり合いの獣や虫の形をしている。そしてバグズと相対している二機のアームズフレーム。


「プロトワン……?」


 アームズフレームとはクロスバディ・クライシス、クロクラやバディクラと呼ばれるゲームに登場する人型ロボットの名称だ。その中でもプロトタイプゼロワンと呼ばれる機体は、ゲームのクリア特典として使用できるようになる曰く付きの機体のことだ。


 設定資料によるとゲームの本編開始時に残っているのは一機だけとなっていた。それが最低でも目の前に二機あり、そして俺自身が乗っているのもプロトワンだとすると今はゲーム本編が始まる前なのだろう。


 状況はまだよくわからないが、このままじっとしているわけにはいかない。左右の操縦レバーを握り込み立ち上がるように思考する。するとギシギシと音を立てながら俺が乗っている機体が立ち上がるのが伝わってくる。


 シンクロライドシステムが機能しているのだろう、操縦レバーを握りながら思考するだけで動く仕様はゲームの設定と変わらない。慣れ親しんだカスタマイズ機とは違うが問題なく動かせる。


 右手のモニターには俺の機体よりも損傷の激しいプロトワンが膝立ちになっているのが見える。そのプロトワンは片腕と片足がなくなっているようで、いつ倒れてもおかしくない状態だ。


 先ほど通信で俺に話しかけていた声の主が乗っているのだろう。彼女の存在を感じたと同時に不思議な感覚が俺の前進を包んだ。唐突に周りの状況が手に取るように感じられた。


 この場の生き残りは俺と声をかけてきていた女性、それからバグズと戦っているプロトワンの操縦者。そして少し離れている場所で倒れ伏しているプロトワンの搭乗者の合わせて五人だけ。あとはこの場から遠ざかっていく多数の生命反応があるのがわかった。


 プロトワンに乗っている俺たちはこの場から離れていく生存者を逃がすために殿をしているといったところだろうか。


「ふぅ」


 呼吸をするのもやっとな体。なんとなくだが状況は理解できた。多くの人を逃がすことに成功した現在、彼女の言葉に従い逃げるのが正解なのだろう。だが逃げたとしても生き残れるかは別問題だ。


「何か武器は」


 モニターに表示されている自らの機体の状況を確認。各部に少なくないダメージレベルが表示されてはいる。とはいえ問題なく動かすことは出来るのは謎の知覚現象のおかげでわかっている。


「あれでいいか」


 地面に突き刺さっている大きな鉄パイプ。それ以外に使えそうなものは見当たらない。


『トウヤちゃん何を、早く逃げて』


 彼女の声に焦りが滲んでいる。遠くから何かが破壊される音が聞こえたと同時に俺の機体の横を一体のプロトワンが飛んでいく。先ほどまでバグズと戦っていたプロトワンの一機だ。搭乗者はまだ生きているようだが、あの損傷ではもう戦闘はできないだろう。


『トウヤちゃん早くあなただけでも逃げてよ』

「んなわけ行くか」

『私のことは放って置いて、お願いよ』


 いつの間にかバグズが俺たちを観察している。先ほどまで戦っていたもう一機はバグズの足元に転がっている。このバグズは犬のシェパードを大きくしたような見た目をしていて、その体の大半は機械でできている。犬型バグズが唐突に飛び上がると、俺ではなく彼女の機体へ襲いかかる。


「うおりゃ」


 俺は彼女の機体の前へ躍り出ると、飛びかかってくるバグズへ鉄パイプを横薙ぎに振るう。反撃をされるとは思っていなかったのか、バグズはあっさりと俺の一撃を受けて地面を転がる。


『トウヤちゃん、何をしているの。わたしのことはいいから』

「ざけんじゃねー。最推しの女を置いて逃げるなんて出来るわけねーだろうが」

『えっ?』


 俺は機体を動かし立ち上がろうとしているバグズへ向かって機体を進める。もう少しで攻撃の間合いに入ろうとしたところで視界の外から攻撃を受ける。なんとか鉄パイプを振るい後ろへ機体をジャンプさせて下がる。こちらを警戒するように唸り声を上げているバグズの背中からは複数の触手がウネウネと蠢いている。


 その触手で攻撃されたのだろう。俺は再度機体を前へ、バグズに向かって進ませる。襲ってくる触手は鉄パイプでそらし、ときには回避しながら前に進ませる。あともう一歩で鉄パイプの間合いに入るといったところで突然機体のバランスが崩れる。


「くそが」


 バグズの攻撃を受けたわけではない。機体の損傷を失念していた。これはゲームじゃなく現実だ。ゲームとは違い数値だけの損傷ではない。それを考慮していなかった。メインモニターには操縦席を狙って触手が向かってくるのが映し出されている。


 ここまでかと思ったところでチュインという音が連続で聞こえ、それとほぼ同時に触手がちぎれ飛ぶのがモニター越しに見えた。これは銃撃によるものだ。誰がやったのかはわからないがこの機会を逃すわけにはいかない。前に倒れようとしている機体の勢いを利用して、腕を地面に叩きつけ無理やり機体を前に飛ばす。


 体が熱い。血を流しすぎたためではないだろう。もしそうなら逆に体温が奪われるはずだ。体全身が燃えるように熱いこの現象を俺は知っている。だがこれは──。今はそのことを考えている余裕はない。


 機体とバグズの距離が一気に近づく。俺は操縦レバーを強く握る。俺の思考に従い機体は嫌な音を鳴らしながら無理やり鉄パイプを振り上げる。俺の体を焼くほどの熱が操縦レバーを通して鉄パイプへ注がれる。もし外から俺の機体を見たのなら、機体と鉄パイプが赤く輝いているかもしれない。


「うおおおおおおお」


 そして俺はバグズの首へ向けて鉄パイプを突き入れる。だがその行為によって機体の腕が限界を迎え砕けたのがわかった。片足と両腕を無くした機体は、軽くなった勢いのままバグズを飛び越えて地面に叩きつけられ衝撃が俺を襲う。


「うぐっ」


 流石にもう機体を立ち上がらせることはできないだろう。あれで駄目ならどうしようもない。機体は完全に機能を停止したようで、メインモニターは何も映し出すことなく沈黙している。この機体は完全にスクラップになったのだろう。シートに全身を預ける。先ほどの衝撃も相まって体中が痛い。


 なんとか脱出しようと腕を動かして俺の体をシートに縛り付けていたベルトを解除する。ベルトが解除されたことで呼吸が楽になった。ただ脱出する体力は残っていないようで指一本動かす気力すらない。唐突に機体の外からミシミシという音が聞こえてきた。


「駄目だったか」


 バグズが俺の機体を破壊しようとしているのだろう。このまま気絶でもできれば楽に死ねたかもしれないなと思ったところで搭乗口が引き剥がされた。開いた搭乗口からは真っ赤な光が搭乗席に差し込んでくる。


「トウヤちゃん!」

「ぐえっ」


 操縦席に飛び込んできた女性……少女に勢いよく抱きつかれた。豊満な胸の感触が俺の胸を圧迫する。


「トウヤちゃんトウヤちゃんトウヤちゃんトウヤちゃんトウヤちゃん」

「うげっ、くるし」

「あっごめんさない」


 少女が俺から離れると同時に押し付けられていた柔らかい感触が消える。そのことを少し残念に思いながら俺は少女に笑いかける。ここに彼女がいるということは無事にバグズを倒すことができたのだろう。彼女の無事が確認できたことで気が緩んだようだ。全身からも力が抜けるのを感じ目を閉じたところで俺の意識は途切れた。

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