19話
長谷川水葉は駅から少し離れた地元のコンビニでアルバイトをしていた。
俺は随分前にそれを知り、佐島唯と元村茜を殺したことで、こいつの日常にどんな影響をもたらすのかと観察してきた。
共通点は多い。そこから導き出される先に、誰かいまいか? ん、俺がいまいか?
分からない。慣れた段取りでコンビニ前のゴミ箱のゴミを回収している。
「こんにちわ」と俺は声をかけた。
「はい」
長谷川が客だと思ったのか、建前的な晴れた声色で返事をした。
それから振り返って。目の前に立つ俺が誰だか理解するまでの数秒間は、接客用の笑顔があった。
徐々に顔を崩れた。笑みは引き攣った笑みに、苦笑いに、無表情に……そして、魚の黒眼がやってきた。
「……」
長谷川は無言だった。睨むでもなく、ただ真っすぐに丸い目をした。
だが俺は知っていた――この表情を、一瞬にして崩すことができるであろう単語を。
「先日、玉木先生に会ったよ。元気そうだった」
「……」表情は変わらない。
「それから、佐島と元村にもあった。実は卒業アルバムを見るまで名前も思い出せなかったんだけど」
長谷川の表情が変わった。
見開いた目は徐々に怯えに向かい、彼女がゴミ袋を落として尻餅をつくまでにそれほど時間はかからなかった。
コンビニの自動ドアが開き、「どうかされましたでしょうか」と中年の男性店員が現れる。
俺は右手の拳をぎゅっと握った。体全体を狙って瞬間的に圧縮し、店員は握り潰れる。そのまま遠くへ放り投げた。
手際の良過ぎる一連の出来事に、長谷川が理解が追いついていないらしい。小さく「ひっ!」としゃっくりのような悲鳴が聞こえた。
「三人にはヴィーナス像みたくなってもらった。363人にプラス3人と、合計366人か……長谷川、君で367人だ」
「い、嫌ぁああああ!」
長谷川は犬歩きで逃げながら立ち上がり、コンビニの駐車場を逃げた。軽く体を浮かせると、足だけが無駄に駆ける動作をした。自分が進んでいないことに気付いた長谷川は動きを止め、「嫌ぁあ!」と学習しない言葉を言った。
「別の悲鳴はないのかよ」
地面に下ろしてやるとまたり出した。進行方向に重力の球を落とすと、アスファルトが爆発して音を立て、小さく陥没する。長谷川は悲鳴を上げて別の方向へ向いて、逃げ走ろうとする。またい同じ要領で、進行方向に重力球を投下。悲鳴、逃げる、悲鳴、逃げる、悲鳴、逃げる……。長谷川はしばらく同じ動作を繰り返した。長谷川はいつしかコンビニの駐車場でステップを踏みぴょんぴょん跳ねていた。
ようやく逃げられないと悟ったのか、その場に座り込む。
傍の通行人が見向きもしないことに、泣きじゃくるほどに戸惑った。
「俺の周囲では時間が歪むんだ」
そう伝え、今度はコンビ二を丸ごと握りつぶした。建物だけが不自然にぱっと消えて。そこに何もない空き地が現れた。
長谷川は悲鳴すら上げず、口を開け、疲弊した面で空き地を見つめた。
「今度はお前の番だ」
「嫌……」長谷川は口元を引き攣らせて泣いた。
「――猥褻物になってしまえ」
幼稚園にいた頃の記憶を思い出した。
グラウンドの隅のマリア像の入った、小さな白い
実が生ると園児たちは勝手に取って食べた。
後から駆け付ける園児に、手に持っていたざくろを分けて、一緒になって食べた。酸っぱかったり甘かったりして、「おいしい」「ちょうだい」と言って、みんな笑っていた気がする。
振り返ると、そこには園児たちのものと思われる、食べかけのざくろが散乱していた。傍には腕のないヴィーナスは横たわっている。
それらを見つめていると、口の中に懐かしい甘酸っぱさを感じた。
俺はよだれを飲み込んだ。
「もう、ザクロはいらないや」
〇
楠木陸の家は、ホームセンターの裏側にあった。
昔は家の近所にあったが、どうも高校のころに引っ越したらしい。
時間にして、夕暮れ落ちて空が暗く青みがかる頃だった――俺は家のインターフォンを押した。
「――はい」
男性の声があった。
「霜月と申します。陸くんはいますか」
しばらくして玄関のドアが開いた。
「――はい?」
隠しきれない悦びに、思わず口角が引き攣った。
〇
長谷川水葉の遺体はコンビニの駐車場の真ん中で見つかった。
特徴としては両腕がなかった。
楠木陸の遺体は自宅のリビングの、ソファーの上で見つかった。帰宅した母親が見つけたらしく、特徴としては両腕がなかったそうだ。
この一連のニュースはテレビでは報道されなかった。
ネットは情報規制がかけられていると噂された。
情報が整理されて、佐島唯、元村茜、長谷川水葉、楠木陸――4名が同じ中学の同級生であることをネット民は不思議がった――。
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