蝉が惨めに通り魔す

酒とゾンビ/蒸留ロメロ

第一章 ターコイズ色の夢想的作用

プロローグ

20××年 9月11日 (金) 大安


ベット脇のティッシュケースに手を伸ばそうとして、ケースが手に引き寄せられて確信した。距離にして約一メートルほど。右手に一瞬、G「重力」的なものを感じた。高熱が出たときの浮遊感に近いかもしれない。錯覚なのか何なのか、手がふわっと浮き上がって二重に見えた。手だけが幽体離脱したかのようだ。

 夜中の一三時前まで練習。ティッシュケースやペットボトルなんかを引き寄せるだけの簡単なものだ。ペンやハサミは尖っているから、やめておいた。


補足。深夜二時にティッシュケースが弾け飛んだ。おそらく学校で濃霧の男ミストマンを襲った能力はこれだろう。


       〆


20××年 9月12日 (土) 赤口


6時30分起床。練習に入る。

昨夜、物体を弾き飛ばす能力を見つけた。斥力せきりょくというらしい。厳密には意味は違うようだ、「斥力的な何か」と仮定する。

午前中は昨日と変わらず引力を、午前後半からメニューに斥力の操作を加えた。

少し慣れてきた。ただ斥力の場合、力を発動したあとに手から力が離れていく感じがする。引力の場合は引き寄せて物が手に収まるまではGを感じた。直後に余韻もあった。でも斥力は違う。まるで小学生の時に持っていた火薬鉄砲をうった時みたいだ。発動後の、本当に瞬間的な重力のみで、それ以外では感じ得ない。

午後は斥力操作。自分の中でレベル1、レベル2~と感覚的に強さを分けて特訓した。

ひとまず簡単に設定表を考えてみた。重さに応じてレベル設定した。


レベル1 鉛筆、消しゴム、筆箱。

レベル2 ティッシュケース、500mlのペットボトル。

レベル3 ゴミ箱。

レベル4 ひとまず5kのダンベル。


レベル3の斥力に対してダンベルは少し揺れる程度だった。動かすにはレベル4以上必要ということになる。床をずりながらダンベルは動いた、ただしその時点でレベル4ではなく、レベル5以上に相当する斥力、引力が必要となる。

レベル5以上相当の斥力を鉛筆に使ったら、弾け飛んで壁に当たって折れた。

レベル1~5までの練習を繰り返してみた。馴染んできている気がする。まずは力よりもコントロールだ。夜まで続けた。


補足。引力と斥力を同時に使ったら、ゴミ箱が浮いた。


       〆


20××年 9月13日 (日) 先勝


少しだけ浮いたゴミ箱は、一日練習してもそれ以上浮くことはなかった。引力と斥力を同時に使うのは難しい。つまりゴミ箱を上に斥力で飛ばして、引力で下に引っ張る必要があるからだ。

ただこの時点で、これは引力でも斥力でもないということになる。


改めて、ちゃんと言葉の意味を調べてみた。これらは二つの物体の間に働く相互作用のことで、引力とは「互いを近づけようとする力」であり、斥力とは「互いを遠ざけようとする力」だ。

ゴミ箱と俺との間に相互作用がない訳ではないだろう。ただしこれが引力や斥力なら、ゴミ箱と床との間で相互作用が働いていることになる。

先入観から、引力と斥力を模倣しようとしていた可能性がある。ものが違うのだから、それではダメだ。と仮定する。


意図的に、触れずにゴミ箱を動かしたことは事実。意思の力で動かしたとするならば、これは念動力と呼ぶことができるだろう。

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