『記憶』
昼と夜と宇宙の外と
『記憶』
一番古い記憶とは、なんでしょうか
それは、おそらく幼少期に見た『夢』でしょう
少なくとも私の調査では、幼少期に見た夢の方が覚えている、という人が多いのです
私の一番古い記憶は、『落ちる夢』でございます
ただ『落ちる夢』と言って、情景がピン、と浮かぶ者は少ないでしょう
私が見た『落ちる夢』は、とある大規模ショッピングモールから落ちる夢でした
これで、先程の説明よりも夢の内容がおぼろげな想像になったことでしょう
みなさん、どこのショッピングモールにも吹き抜け…上の階から下の階を見下ろせる場所はあるかと思います
そこの上の階から落ちるのです
楽しいショッピングのお時間に関する記憶はありません
まあ、夢ですからね
まず、上の階から落ちます
自分から、ガラス張りの落下防止用の壁、かどうかは正直曖昧なところですが、そこから飛び降りるわけではありません
言ったでしょう?『落ちる』夢だって
何が起こったのか、その壁がこの世に存在しないかのように消えるのです
そうして、私は床に落ちます
人々が踏み歩き、少し薄汚れたその床に向かって
床にぶつかるその刹那、私をめがけて、どこまでも続く、黒い穴が床から広がるのです
ショッピングモールを歩く、シンプルな靴をきっちり履いた人々の足が見えなくなると、その夢は終わりを告げました
これが、私の一番古い記憶にして、初めての『落ちる夢』なのです
そう、「初めての」『落ちる夢』なのです
それから幾年経ったでしょうか
また、ガラスの壁の存在が、この世から消えました
今度は、ズラズラと並ぶ別の店舗、別の飾り、別の照明がついているショッピングモールです
あの薄汚い床からは、底のない穴は、現れませんでした
その代わり、駅のホームに景色が切り替わったのです
いえ、いくら駅とは言えど、ホームではありませんでした、間違えてしまいました
重力に引かれるその体は、冷たい空気の中、錆びた線路に向かっていました
ホームの方なんて、到底見えやしないほど、線路が目の前にありました
そしてあの黒い穴が、今度は線路の間から爆発的に広がりました
二回目の『落ちる夢』から、数年経ちました
これから話すのは、ええもちろん、三回目の『落ちる夢』についてです
とは言ってみたものの、三回目の『落ちる夢』は至って退屈なものでございます
ショッピングモールにいることには変わりないです
少しだけ、構造が違うことも変わりないです
ただ、最後にあの黒い穴が現れませんでした
宙に浮き、ジタバタと手足を動かして、足、胸、とにかくどこでもいいので、地に触れようとするだけが意識の使命として奥にあったのです
なぜこの話をしてしまったのでしょうか
最近になって、ふと思い出したのです
あれは、中学に入りたて、まだ「社会」という言葉の中にある、「残酷さ」という言葉を知らない頃でした
私は、クラスメイト全員と疲弊してぐっすり寝込んでいる先生方とバスに乗っていました
特に話せる人が周りにいないので、背もたれに重い頭をあずけ、瞼を閉じました
そしたらまた、『落ちる夢』を見たのです
それは今までで、一番短く、かつ一番鮮やかさが大きくなってしました
観覧車です、遊園地にある、よく思い浮かべる、あのカラフルな
何人かのクラスメイトと一緒に乗っていました、特に仲良くない子も、仲のいい子も一緒でした
どこで落ちたのかはだいたい予想がつくでしょう
そう、観覧車のてっぺんです
落ちる時、不思議と恐怖特有のパニックはありませんでした
何度も落ちる夢を経験しているうちに、空中の浮遊感に慣れていたのでしょう
むしろ、落ちてしまった後に到来した、ゾンビの遊園地襲撃パニックの方が、私の心を大きく跳ねさせました
次に落ちるのはいつでしょうか
そして、次に一番古い記憶を呼び起こすのは、いつでしょうか
『記憶』 昼と夜と宇宙の外と @s_n_tai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます