第4話:死神コンサルタント、現世へ――「死ぬまで働け」を「死んでも働け」に変える男
1. 「在庫」が足りない!
スピリット・ロンダリング社の戦略会議室。かつては優雅なクラシックが流れていたこの部屋も、今は怒号と計算機の叩く音が響く戦場だ。
「報告しろ、リリィ。今週の『成約数(浄化数)』は?」
サトウの問いに、目の下に深い隈を「勲章」のように刻んだリリィが、キビキビとした動きでタブレットを提示する。
「はい。前週比1,500%向上。浄化プロセスは完全に自動化され、待機中の魂はゼロ。……しかし、問題が発生しました。『在庫』が底を突きました」
あまりに効率化しすぎた結果、あの世にやってくる死者の数よりも、処理するスピードが上回ってしまったのだ。
「死者が来るのを待つ……そんな『受動的』な姿勢が、今の停滞を招いているんだ」
サトウは窓の外、広大なオフィス街を見つめながら呟く。
「リリィさん、営業の基本は何だ?」
「……『欲しい人に売る』ではなく、『欲しくない人に売る』こと、でしょうか?」
「違う。**『需要がないなら、需要を創り出す』**ことだ」
サトウの目が、獲物を狙うハゲタカのように鋭く光った。
「現世に降りるぞ。ターゲットは、俺を殺したあの会社――『株式会社欲しがりません勝つまでは商事』だ」
2. ブラック企業あるある:その7「外注(死神)という名の黒船」
現世。新宿の片隅にある、24時間電気が消えないビル。
そこでは、かつてサトウを死に追いやった神風部長が、部下を怒鳴り散らしていた。
「おい! なんだこの見積書は! 根性が足りん! コストを削れと言っただろうが!」
そこへ、漆黒のスーツ(あの世の特注)に身を包んだサトウと、秘書スタイルのリリィが颯爽と現れる。
「失礼します。経営コンサルティングのご提案に参りました」
「あぁ!? 誰だ貴様は! アポイントメントはどうした!」
「予約? そんなものは『無能の言い訳』ですよ、神風部長」
サトウは、かつて自分を殺した上司の顔を真っ向から見据え、最高に不敵な笑みを浮かべた。
「私は、御社の生産性をさらに300%引き上げ、かつ**『社員を一人も辞めさせない(死んでも逃がさない)』**魔法のソリューションを持ってきた者です」
3. ブラック企業あるある:その8「無敵の福利厚生(という名の死者蘇生)」
サトウが提案したプランは、神風の極みだった。
その名も、『24時間365日・トータル・ライフ・マネジメント』。
名付けて24時間356日働けますかー!!
「神風部長、社員が死ぬのは『コスト』ですよね? 過労死の隠蔽、光の速さでご親族への対応、葬儀の手配、全負担、求人の広告、引き継ぎの工数……無駄だ。そこで、我が社のサービス。**『過労死した瞬間に、その魂を現場に再配属』**します」
「……ど、どういうことだ?」
「魂になれば睡眠は不要。食事も不要。愚痴もこぼさない。しかも、我々スピリット・ロンダリングが管理すれば、現世の労働基準法は適用外です。なぜなら既に死んでるんですから。『死者枠』という名の究極のアウトソーシングですよ」
神風部長の顔が、欲に歪んだ。
「それは……素晴らしい。人件費がタダ同然じゃないか!」
リリィは横で、現世の社員たちが「死んでも働かされる未来」を想像してゾッとしていたが、サトウの「ビジネスの顔」には一片の迷いもなかった。
4. ブラック企業あるある:その9「精神論のアップデート」
サトウは、かつての同僚たちの前に立った。
皆、かつての自分と同じように、死んだ魚のような目をしている。
「皆さん、朗報です。今日から皆さんの会社には、**『お迎え制度』**が導入されます。仕事がキツくて死にたくなったら、遠慮なく死んでください。……ただし、死んだ3秒後には、この席に戻ってきてもらいます」
サトウは黒板に大きな文字で書いた。
【一生懸命 = 一生、懸命に(死んでも)働く】
「いいですか。死は逃げ場ではありません。**『キャリアの第2ステージ』**に過ぎないんです。さあ、今すぐ残業を再開しましょう! 倒れるまで働いても、私たちがしっかり回収してあげますから!」
絶望。
社員たちの顔から、最後の希望が消えた。
「死ねば楽になれる」という唯一の救いを、サトウは合理的に奪い去ったのだ。
5. クライマックス:地獄のハイブリッド経営
数週間後。欲しがりません勝つまでは商事は「死神と人間のハイブリッド企業」として、業界の頂点に君臨していた。
オフィスには、生きた人間と、その隣でタイピングする「元同僚の幽霊」が並んでいる。
「いやぁ、サトウ君! 君は天才だ! 離職率ゼロ、幽霊の人件費タダ! 生産性無限大! これこそ理想の経営だよ!」
上機嫌な神風部長。だが、サトウは冷たく言い放つ。
「部長、一つ忘れていませんか? 私は『経営コンサル』です。……代価は、貴方の席ですよ」
「えっ……?」
「貴方は、現場を管理できていない。だから、私が代わりに管理します。貴方は本日付で、『スピリット・ロンダリング』の最下層・魂回収作業員に『転職』していただきます。
……あ、そうそう、退職金はありません。全額、私のコンサル料として相殺しました」
サトウの合図で、リリィが巨大な鎌を取り出す。
「お疲れ様でした、神風部長。……地獄の研修期間は、約500年となっております」
「ぎゃああああああああああ!!」
新宿の夜空に、神風の悲鳴が響き渡った。
サトウは、かつての自分のデスクに座り、懐かしいコーヒーを一口啜る。
「……さて。リリィさん、次のクライアント(ブラック企業)へ行こうか。この世界には、まだまだ『効率化』が必要な場所が溢れているからね」
「はい、サトウ代表! スケジュールは、今後100年先までパンパンです!」
二人の死神(社畜)を乗せた漆黒の高級車が、夜の街に消えていった。
今回の「ブラックあるある」まとめ
■需要の創出: 市場がないなら、無理やり作り出す(マッチポンプ)。
■逃げ場の封鎖: 「死んでも終わらない」という究極の拘束。
■横文字での誤魔化し: 「死」を「第2ステージ」と言い換える。
■下克上(報復): 権力者に媚びつつ、最後はシステムごと奪い取る。
■スケジュール地獄: 100年先まで埋まっていることを「誇り」にさせる。
▶あなたの会社でも既に起きているかもしれません。
■次回予告
第5話(え?最終回?)「全宇宙ブラック化計画」
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