Haraji butyricum

高橋心

Haraji butyricum

 「うわ、ハラジの肩触っちまっだ。手にハラジ菌が付いだにちげえネェ。」

ハラジ少年は無視をした。木造りの教室にて級友から揶揄われていたものの、所詮はちっぽけな餓鬼大将がする程度の低い冷やかしだ、と歳に似合わず達観していたからだ。

 「ハラジ菌だ、ハラジ菌だ、今すぐ手を洗え。病気になでしまうぞ。」

 猿山の下っ端どもが長を取り巻き始めても少年はほとんど揺らがずにいたが、その反面絆に飢えているのも又事実であった。いつか賢いだけの自分に、大きな人の繋がりの流れが振り向いてくれるのか不安で仕方が無かったのだ。


 それから四日後のことである。かの餓鬼大将が脂汗を浮かべながら腹痛と悪心を訴えた後、意識を失い村の診療所に運ばれたらしい。原因不明とのことで次の日、隣町の病院へと担ぎ出され、また次の日彼は息絶えた。踏んだ銀杏のような酸っぱい匂いのする遺体の隅々からは酪酸菌に非常によく似た菌が発見され、医者はそれが病の原因であることを突き止めた。そうして医者は最後にその菌を元の持ち主に因んでハラジ菌と命名したのだった。


 これがハラジ少年が窓の無い部屋で聞いた、事の顛末である。





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