魔力ゼロの最強賢者

進行諸島

第1話 最強賢者は魔力ゼロ

 俺はネイトン=マギウス。

 マギウス侯爵家の三男にして、一族の落ちこぼれだ。


 俺が生まれたマギウス侯爵家は、1000年以上続く魔法の名門として、王国中に知られている。

 その本家の人間ともなれば、誰もが凄まじい魔力量を持ち、魔法師団のエースや大規模魔法工房のエリート付与術師として生きていくことになる……世間的には、そう思われているのだろう。

 実際、マギウス家の人間のほとんどはそうなる。


 だが何事にも例外というものがある。

 俺がその例外だ。

 なにしろ俺は、マギウス家の人間にとって最大にして最強の武器……魔力を、一切持っていないのだから。


「ネイトン、今日はこれを頼む」

「……分かった」


 俺は父から注文書を受け取り、内容を確認しようとして……すぐにやめた。

 内容は、注文書のタイトルを見るだけで分かる。

『魔法灯の設計依頼』。

 この1年で、100回以上見た文字列だ。


「魔導具設計の仕事は不満か?」


 俺があまり乗り気ではないのに気付いたのか、父ルインズがそう訪ねた。

 父ルインズ=マギウスは俺と違って膨大な魔力を持ち、数々の伝説を残した、高名な魔法使いだ。

 最近は歳による衰えもあってか、家にいることが増えたようだが……それでも彼の影響力は、王国中に及んでいると聞く。

 俺がまともに仕事に出ることもなく暮らしていられるのも、彼のお陰だ。


「いや、そんなことはないよ。いつもありがとう」


 魔力を持たない俺は、魔法を使う職業には向いていない。

 だが俺は、魔法というものが好きだ。


 理論的な研究だけであれば、魔力はいらない。

 だから俺は魔法使いではなく、魔法研究者を目指していた。

 もちろん魔法研究者だって魔力がなければ難しい部分はあるのだが、魔法使いを目指すよりはまだ現実味がある。


 父はそんな俺を応援して、魔法研究を多少は生かせるであろう仕事を用意してくれている。

 それがこの、魔導具工房からの魔導具設計依頼だ。


 正直なところ、こんなものはごく基礎的な魔法学の知識さえあれば、簡単に設計ができる。

 依頼主の名前は大手の魔導具工房ということになっているが、こんな設計を外部に頼む必要があるとは思えない。金と時間の無駄だ。


 だが、俺がそれに文句を言うのはお門違いというものだろう。

 恐らく魔導具設計は、父が工房に『息子に何か仕事をさせてほしい』とでも頼んで作ってもらった仕事だ。

 感謝しなければ、バチが当たるというものだ。


「……いつものやつか」


 俺は注文書を受け取って部屋に戻り、魔法回路の設計図を書き上げる。

 かかった時間は、ほんの10分といったところだろう。

 以前に設計したものと少し出力や使用魔石の質が違うだけなので、もはやただの流れ作業だ。


 こんなもののために金を払ってくれるのだから、父の威光はすさまじい。

『マギウス家監修!』とでも売り文句をつけたい魔導具工房との利害の一致もあるのかもしれないが、それはそれで購入者たちを騙しているみたいで気が引けるな。

 設計しているのが俺だと知ったら、購入者たちはみんながっかりするだろう。


 などと考えつつ俺は、魔法研究誌を手に取る。

 みんな研究成果を隠したいのか、研究誌の内容自体にはごく初歩的な内容だけなのだが、目当ては一番最後に乗っている求人ページだ。

 ここには毎回、魔法研究者の求人リストが載せられている。


「これもE級魔法師、これもE級……こっちはD級か。夢のまた夢だな」


 親のお情けで与えられる魔導具設計ではなく、ちゃんとした研究者としての仕事がしたい。

 それが俺の当面の目標……いや、夢だ。


 この国の魔法研究職は、ほぼ例外なく魔法師資格を要求される。

 研究実績がどうとか以前に、まずはその資格がないと、応募すらさせてもらえないのだ。

 今日もやはり、魔法師資格のいらない研究職の求人は出ていなかった。


 高ランクならともかく、E級魔法師資格は極めて簡単な資格だと言われているので、ほとんどの研究者志望には関係がないと言っていい。

 だが魔力を持たない俺は、その試験を突破することができない。

 魔石や他人などから魔力供給を受ければ、魔力がない人間でも魔法を使うことはできるのだが……魔法師試験は自前の魔力だけを使う規則なので、手の打ちようがないのだ。


 俺はため息をついて魔法研究誌を閉じ、ゴミ箱に放り込む。

 それから研究ノートを開き、魔法についての研究を始めた。


 たとえ何十年待とうとも、魔法師資格のいらない研究職の求人が出る保証などない。

 だが、もし求人が出た時に研究能力不足で落ちるようなことがあれば、俺は一生後悔する羽目になるだろう。

 そうならないために、俺は研究を……いや、違うな。


 本当のところを言えば、俺はただ楽しくて魔法の研究をしているだけなのだろう。

 研究職がどうとかは、理由を後付けしているだけだ。


 とはいえ、いつまでもこうして魔法理論で遊んでいる訳にもいかない。

 父は俺の魔法研究を応援してくれているが、俺が本来すべきなのは魔法研究ではなく、領地経営の補佐だ。


 兄たちは魔法使いとしての仕事で忙しいので、貴族としての仕事は父が行う事が多い。

 だが父ルインズが領地経営のために時間を使うのは、魔法界にとっての損失だ。

 そういった仕事を少しでも肩代わりできるのであれば、魔法の才能を持たずに生まれた俺にとっては上出来といったところだろう。


 などと考えていると、部屋のドアが急に開いた。

 そして顔を出した父が、俺に告げる。


「ネイトン、就職先が決まったぞ」


 ……父が魔導具設計への不満に気付いてから、まだ一時間も経っていない。

 どうやら俺は、父の人脈を甘く見ていたようだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る