第28話 愛すべきゾンビ
「みんな死ねばいいのに・・・」
どこからか声がした。その声は次第に大きくなっているようで・・・
「みんな死ねばいいのに・・・」
直ぐにはっきりと聞こえた。
「みんな死ねばいいのに・・・」
聞き慣れた言葉だ。
――みんな死ねばいいのに
なんだ俺の声か・・・
田辺はとある住宅の一室で目が覚めた。
あれから半年が経っただろうか?この世界にももう慣れた。思い返して見れば、前の世界と何が違うのか?―― 何も違わないのだと俺は思う。それどころか前よりずっと生き生きとしていられる。何故ならそれは俺が望んだ世界だから。
――“みんな”が死んだ世界なのだから
村田さんに裏切られ。冬也さんにも裏切られ。結衣さんには見放された。
――あのくそアマが!あれだけ優しくしてやったのに、図に乗りやがって・・・
どうせ今頃死んでんだろう。
結局のところ、俺には美鈴だけだったのだ。
そんな彼女ももういないが・・・「自分が望んだこと」だから仕方がない。
このみんなが死んだ世界を受け入れよう。
・・・・・・・
「田辺・・・」
「聞いてんの?」
「ん?」
ソファーに寝ころびながら横目でちらっと声のする方を確認すると、そこに林の姿があった。
「ん?なんだ、もう行くのか?」
「もう行くのかじゃないでしょ?日が暮れる前に食料と次の寝床を見つけるって昨日話したじゃない」
「分かってるよ。ちゃんと覚えてるって――」
林とはこの半年でこの程度の会話はお互い構えることなくできるようになった。大学にいた頃は暗い奴だと思っていたが、今となっては、よくしゃべる奴だと――少し前までこいつに気を使っていたことを後悔する。
「田辺くん起きたのかい?そろそろいくよ」
吉岡が顔をのぞかせた。もう彼に自衛官の面影はない。ただのゾンビハンター。それか浮浪者だ。中途半端に伸びた彼の無精ひげがそう思わせる。
「昨日その髭剃るって言ってませんでしたっけ?」
「そうだったか?まあいいじゃないか――かっこいいだろうぉ?」
吉岡さんとも以前より打ち解けた。いやそれ以上だろう。
もう村田さんたちと一緒にいた時間よりも、はるかにこの2人の方が長いのだ。
「今日は何体狩れるだろうねぇ。楽しみだよ」
「奴らに会わなければいつも通りじゃないですか」
「またまたぁ。ランナー程度、君ならもう容易(たやす)いだろ?」
「吉岡さんはあいつらを知らないからそんなことが言えるんですよ。ホント面倒なんですよ。他のゾンビと違って――だいたい奴らの存在はゾンビに対する冒とくですよ」
「まーた始まったよー」
林は呆れたように田辺を睨んだ。
「ゾンビは走ってはいけない!あれはロメロ主義に反する。断固として認めるわけにはいかない」
「じゃあやることは一緒だな?いつもと――」
「ええ。そろそろ出ましょう」
「2人とも置いてくよ!」
「俺がいなくて困るのはお前だろ?――」
田辺の言葉に林は頬を赤く染めた。それを見て田辺はニヤリと笑った。
・・・
田辺は正面にいるゾンビ目掛けてバットを振り下ろした。
「次!右から来てますよ――吉岡さん!」
「分かってるってー」
「林!吉岡さんがそいつを殺ったら奥からくる奴を頼む――」
「うん――」
俺たちの日常はこんなものだ。ここ最近は――
「田辺くん!――」
林がゾンビを殺り終えたところで、吉岡がある方向を指さした。
「頼む!――」
そこには転化後、変異したゾンビ。ランナーの姿があった。
「倒し方――よく見ててくださいね」
田辺は小走りでバットを構えながらゆっくりとランナーへと近づく。そして、それに気づいたランナーは雄たけびを上げる――それはゴーストタウンと化した街に響き渡る。
田辺が小走りなのに対して、ランナーは猛スピードでこちらに向かってくる。
そして・・・
田辺はランナーを一振りで仕留めた。
その時、田辺の左目は赤く充血していた。これが何なのかは分からない。
感染の類なのか?ならば、俺も奴らと同じようになってしまうのか――
半年前、避難所を抜けた後――俺はランナーとの一戦で負傷し、眠っていた。
意識を取り戻した時、俺の左目は赤黒く染まっていた。ただそれと同じ時期だったろうか?どこか力が増したような気がする。
不可解なのは分かってる。何となく、良い事でないことも・・・
ただ今は生きるために必要なものとして受け入れるしかないのだ。
「とりあえず、今日中に食べ物を確保できそうな場所だけでも見つけませんか?建物の中に入るかは別として」
田辺はカバンの中にある残り僅かな食料を確認した後、2人の方を見た。
「そうだな。何だったら探索まで進めてもかまわないぞ」
「ちょっと待ってよ!私は嫌だよ。ちゃんと事前に安全を確保してからじゃないと」
この半年の間、田辺たちはひたすら物資を探した。ある日は比較的、大きな一軒家。外装を見てまだ荒らされていないだろうと、少しでも望みの持てる建物には片っ端から挑み、その際にゾンビや、先ほどのランナーと遭遇することもあった。そのせいか、林と吉岡は以前よりも逞(たくま)しくなり、田辺はさらに強くなった。
「そうだ!まだ行ってないところがあるんだ」
田辺は少し楽しそうにも見えた。
「行ってないところ?」
「うん。まあショッピングモールなんだけどね。やっぱりゾンビを狩るならショッピングモール。立て籠もるならショッピングモールだよ。ゾンビの世界では!」
「はぁ?意味わかんないんだけどー」
林にとって田辺の言っていることは理解できないことばかりだ。林は心の中で、こいつは頭がおかしいのではないかと思っている。
「ゾンビとショッピングモールというのは相性がいいんだ。あそこなら何だって手に入る。食料は手に入るだろうし。あと武器に関しても心配しなくて大丈夫だ。ただ心配なのは、それだけ好都合な場所には当然、他の生存者もいるかもしれないってことなんだ」
「その可能性がありながら、そこを目指すメリットはあるのかい?」
吉岡にとっても田辺の考えは不思議だった。
「メリット?そうだなぁーあえていうのなら、ショッピングモール。それ自体がメリットさ。何故ならゾンビファンにとってそこはもはや聖域だからねぇ。それにどちらにしろこの世界で生き続ける限り、行動にはリスクが付きまとう。何をしたって危険なんだ。少しでも望みのある場所の方が良いと思わないか?」
良いとは思わない。林も吉岡も心の中でそう思った。
***
「まさかこんな日が来るとは夢にも思いませんでしたよ。あの頃には・・・」
「俺もさ。まさかゾンビに憧れ頭のネジが外れたような奴の言うことを真に受けて、自ら危ない場所に足を運ぶなんてな!夢にも思わなかったよ」
「またまたー実は吉岡さんも興奮してるんじゃないですか?俺はしてますよ。これまでにないくらい」
「もうあんたの言ってることは理解できないわー初めてあった時もなんかヤバい奴だと思ってたけど、この世界に変わってますますヤバい奴になったよね?あんた――」
「それは当然だろ!こんな世界なんだ。以上なくらいが正常なんだよ!」
「異常が正常か・・・林・・もう田辺の言うことは当分のあいだまじめにきかないことにするよ」
「私も・・・」
3人はそんな他愛もない会話を交わしながら、とあるショッピングモールの前まで来ていた。ショッピングモールの周りにはおびただしい数のゾンビが群がっている。いや、群がるというのおかしな表現かもしれない。こいつらはただそこにいるだけなのだから。
「じゃあとりあえず行きましょうか?戦闘は最小限に、数の少ない場所から攻めて、素早く中に侵入しましょう」
「相変わらず簡単に言うな?俺もお前の目が欲しいよ」
「やめた方が良いですよ。一応、感染してるわけですし、いつ転化するかもわかりませんから――それにスローに見える時があると言っても、タイミングはコントロールできませんし、おまけにかなり疲れますから」
田辺は目が純血するようになってから、敵が遅く見える時があった。これを田辺は感染のせいだと思い込んでいるが、実際の所、理由は分かっていない。感染自体しているのかどうかすら謎なのだ。
「では行きましょう!夢の舞台へ!」
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