隣のままで

@-Yutori-

放課後、窓際で

紗月と美咲が出会ったのは、一年の春だった。


入学式の翌日、席替えで偶然隣になっただけ。

それだけのはずだったのに、美咲は最初から距離が近かった。


「そのペン、かわいいね」


唐突にそう言われて、紗月は驚いて顔を上げた。

人見知りで、話しかけられるのが得意じゃない自分に、彼女はまるで当然のように声をかけてくる。


「……ありがとう」


それが、最初の会話だった。



それから二人は、少しずつ一緒にいる時間が増えていった。


昼休み、気づけば同じ机でお弁当を食べていて、帰り道も、なぜか自然に並んで歩くようになった。


美咲は明るくて、クラスの中心にいるタイプだった。誰とでも話せるし、笑顔も多い。


でも紗月の前では、少しだけ違った。


無理に盛り上げようとしない。

沈黙があっても、そのままでいる。


「紗月といるとさ」


ある日、美咲が言った。


「時間がゆっくりになる気がする」


その言葉が、紗月の胸に静かに深く残った。



二年生になって、同じ委員会になった。


放課後の教室。

資料を広げて並ぶ二人の間には、

いつも触れそうで触れない距離があった。


消しゴムを渡すとき、

ノートを覗き込むとき、

一瞬だけ指先が近づく。


そのたびに、紗月の心臓は小さく跳ねる。


(友達、だよね)


そう思おうとするのに、

それだけじゃ足りないような気がしてしまう。



美咲も、同じだった。


誰とでも仲良くできるはずなのに、

紗月の前では言葉を選んでしまう。


嫌われたくなくて、

踏み込みすぎるのが怖くて。


(これ、友達の距離じゃない気がする)


でも、それを確かめる勇気はなかった。



ある日、美咲が風邪で学校を休んだ。


隣の席が空いているだけで、

教室がやけに広く感じられた。


紗月は『大丈夫?』と送るか迷って、何度もスマホを見る。

結局、メッセージを送れなかった。


一方、美咲もベッドの上で天井を見つめていた。


通知は来ない。

それなのに、気になって仕方がない。


(……紗月、どうしてるかな)


そのとき、美咲ははっきり気づいた。


いないと、落ち着かない。

声を聞かないと、不安になる。

つい紗月のことを考えてしまう。


(ああ、、そっか)


(私、紗月のことが好きなんだ。)


すでに熱で赤い頬は、より紅く染まっていた。


次の日、すっかり元気になった美咲が登校してくると、紗月は思わず声を上げた。


「……美咲」


その声に含まれた安堵に、ほっとしたような表情に、美咲の胸がぎゅっと締めつけられる。


(同じだ)


(紗月も、、きっと)



それからしばらく、二人は少しぎこちなくなった。


話すけれど、

何かを言い出せないまま。


この関係を壊したくない気持ちと、

進みたい気持ちが、すれ違う。



ある日の放課後、いつもの窓際。


夕日が教室をオレンジ色に染めていた。


「紗月」


美咲が名前を呼ぶ。


「私さ……」


一度、言葉を止めて、深呼吸する。


「紗月といるこの時間が、『特別』なんだ」


紗月が、静かにこちらを見る。


「友達って言い切れなくて」


少し震える声で、続ける。


「好き」


短くて、まっすぐな言葉。


「そう私、紗月のことが好き」



一瞬、世界が止まったように感じた。


でも、紗月の胸にあったのは恐怖じゃなかった。


「……美咲」


声が震える。


「私も、同じ」


美咲の目が見開かれる。


「美咲がいないと落ち着かなくて、

 隣にいないと、さみしくて」


一拍置いて、はっきり言う。


「私も好きだよ。美咲」



夕焼けの中で、二人は見つめ合った。


触れない。

でも、距離はもう曖昧じゃない。


「……これからも」


美咲が、少し照れた笑顔で言う。


「隣、いい?」


紗月は、ゆっくりとうなずいた。


「うん。隣がいい」


恋になった瞬間より、

その気持ちを大切にしようと決めた瞬間のほうが、ずっと尊かった。


放課後、窓際で始まった二人の関係は、

静かに、ゆっくりと、でも確かに、前へと

進んでいく。


—————————————————————

【あとがき】


ここまで読んでくださりありがとうございま した。初めての作品なので拙い部分があった

と思いますが、少しでもみなさんが楽しんで

読めたのなら幸いです。

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