閑古鳥のうた

からかさ

序詞

 嗚呼、今日も紅の葉が落ちる。木枯らしとはよく言ったものだ。


 淋しく軋む屋根のもと、客のいる前でひとりごつ。

〝ふむ、珍しい。浮かない顔をしておるな〟

 客は不思議そうな面をして聞いてくる。


 いや、何でもない。ただ世の無常が、風とともに沁みただけだ。


〝無常とな。汝はそれを気にするようなさがだったか。どちらかといえば、全て蹴散らす者ではなかったか〟


 そうだ。しかし、私にも情なるものはある。


〝その紅葉に何か思い入れでもあるのか〟

 ちらりと客の目を見る。客はゆるゆると見返してくる。もう一度紅葉に目をやり、過去を振り返る。軽く話せるものではないと理解し、再び客に向き直る。


 話せば長いぞ。


 客は一寸ちょっと目を見開き、何を今更、と弾けるように笑う。

〝我らが長話をしたところで、叱るものは誰も居らぬ。汝に情があるならば、積もる話の一つもあろう。今宵は徒然なる空の色、我らは秋にしか動かれぬ。酒の肴だ、付き合うぞ〟


 私はともかく、貴方は休みなく働かなければならないはずだが。


なれは鬼か。……さて、こちらは時の流れが早いと云うが、我らがここにいる限り、それを気にする必要もなかろう。いくら長いとは言え、次の春には終わろうて〟

 つらつらと、言い訳だけはいくらでも出てくるらしい。


 相変わらずしたたかでいらっしゃる。


〝それはなれも同じであろう。何度道に迷えば気が済むのか。もう数千は案内しておるぞ〟

 ぐうの音も出ない切り返しにほとほと諦めて、何処から話したものかと首を傾げる。そして事の始めから話す他ないと悟った。目を閉じ、深く嘆息して、言の葉を舞わせ始める。自分の思いとは裏腹に、それが止めどなく溢れてくることに驚きながら。


 今は昔、ある幼子が、末恐ろしき夢を見た――……

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