数学教師の大いなる活躍は、SF世界だけ説
もんごる
第1話 《悲報》無事、迷い込んだ
二人の少女が手を繋いでいる。土の匂い、鳥が羽ばたく音やコオロギの鳴き声。二人はそんな空間の中、ひたすら奥へ奥へと進んでいく。両者とも顔は青ざめており、緊張で手が震えていた。相手の震えが自分にも伝わる程の恐怖。ガクガクと顎を震わせながらも、必死に話している。怖さで喋るのも精一杯なのだろう。
「あれは人間にとって致命傷のはずよ……生きているはずないわ」
そう言い放った瞬間、何か機械がぶつかり合うような音がした。二人は何事かと前を見る。恐怖で真面に息が吸えない。
「……っ」
怖さで動けず、言葉を発する事もできない。今見ている光景を必死に理解しようとしても、何がどうなっているのか分からなかった。コオロギの鳴き声が少しずつ大きくなり、木の枝に鳥の目であろうものが光り出す。何十匹もの鳥が一斉に此方を見ているような気がした。同時に月に照らされた宝石が二人を包み込む。
〇 〇 〇
俺は成りたてほやほやの新人教師、
そんなある日。
俺の授業中に、ゲームをしていた奴らが居た。新人教師だからと舐めすぎだと思う。当然
だがそのままゲーム機とカセットを回収した。
「六時間目が終わったら、すぐ職員室に来るように」
「…………」
俺はそのまま授業を進める。白チョークを黄色チョークに持ち替え、重要な部分に線を引く。暫く経つと、チャイムが鳴った。
俺は職員室で生徒がゲームをしていたという話を隣の席にいる井浦先生に話す。すると、何とも言えない顔で苦笑いをした。そんな彼は、俺より先生歴が遥かに長い。教科担当は情報数理。『バーコード』や『QR コード』などを何でも読み取りたい欲求に駆られるという噂もある。只の噂なので真実かどうかは分からない。
俺はゲーム機の件で溜息をしていると、井浦先生が何か気づいたのか声を上げた。
「あ!」
「どうしたんですか? 井浦先生」
「青本先生、このカセットのパッケージの裏に二次元コードが……」
今すぐにでも読み取りたいのだろうか。まさか、噂が本当だったりする? もしかすると、
この変な趣向を持っているからこそ、情報数理の先生になれたのかもしれない。
「えーと、じゃあ。読み取ってみます……?」
「え! いいの!? 読み取っていいよって言われたからなのか、何だかムラムラ……」
「むらむら……?」
「や、やだなぁ。ムーラ県だよ。ムーラ県! 青本先生も教師だからそんな事言っちゃダメだよ〜」
手をひらひらさせて、照れ隠しのように振る舞う井浦先生。しかも、なんか茶化した。ムラムラって言ったはずだよ、この人。
「ま、気を取り直して。このQRコードを読み取るぞぉ!」
井浦先生は早速、スマホを取り出し二次元コードを読み取る。裏のパッケージに記載されている二次元コードの種類は一番親しみが深い『QRコード』だ。
「カセットのパッケージの二次元コードだから、その説明書だったりして!」
「確かに……そうだな―――あ」
年上の井浦先生につい敬語を外してしまった。昔から敬語で話すのは得意じゃなくて、
溜口で話してしまう事が多くあった。俺はすぐに井浦先生に謝る。
「……あ、すみません。その、敬語外してしまいました」
「うん? あぁ、全然気にしてないよ。なんなら、敬語無しで話してくれてもいいから。
敬語が苦手なのは仕方ないって~」
そんな会話を繰り広げる中、スマホのウェブページはまだ読み込み中という表示。あともう少し……という所で、スマホの画面が急に光り出す。あまりの眩しさに職員室に居る沢山の先生方が、戸惑いの声を漏らしていた。
そんな中、スマホから機械的な女性の声が飛び出る。凛とした声で、合理や効率を重視しそうな雰囲気が只漏れていた。『AI』にしては流暢すぎる、人間にしては躍動感のない声。
〔読み取り、成功しました。二次元コードを読み取った事で起こるプログラムを発動します。プレイヤー二人、確保しました。次に類似しているキャラクターに成り代わりを決定します。決定しましたので、次のプログラムへ移行。発動開始します〕
〇 〇 〇
俺は今、目の前に広がる景色に絶句している。チカチカと踊るネオンライト。沢山の店
が並んでおり、まるで中華街みたいだ。夜空に輝くネオンライト達は俺を虹色に照らす。
「は……?」
俺は驚愕で口を開ける。それもそうである。驚かない方が可笑しいのだ。何故なら先程まで俺は職員室に居たのだから。何故俺はここに居るのだろう。井浦先生は一体どこへ。いずこへ……。
沢山の謎が溢れる中、辺りを見渡す事で少しでも答えに近づける手がかりを探す。
見た所、人は多くもなく少なくもない。カラフルなネオンライトがピカピカと意思表示していて、東京よりも建物は騒がしい。ふと見上げるとカプセルトイ即ちガチャガチャのカプセルみたいな機械が空に浮かんでいた。科学的に不可能な状況のはずなのだが……。
「テクノロジーが、かなり発展しているのか……?」
必死に今の状況を理解しようと頑張るが、それでも混乱する気持ちは収まらない。一刻も早く学校に戻りたい。五限目に俺の授業があるし、ゲーム機で遊んでいた生徒とも話さなければならない。
誰かに帰り方を聞くのはどうだろう?
いや、叫んで井浦先生を呼ぼう。
「キぃヤァァァァ!!!」
なんとまぁ、俺の異変に気付いたのか近づいてくる者が居た。もしかすると、井浦先生もとい変態教師かもしれない。
そう思い、目を凝らす。けれど、近づいてきたのは知らない人だった。
「アレク? ちょ、お前、故障したの? 叫ぶとか、正気?」
俺の目の前に現れた人はサファイヤの瞳をした綺麗な青年だった。薄紫色のラベンダーのような髪色に、チャックのついたパーカー。動きやすそうな恰好で、人生で一度も日に焼けた事がないのかと思うぐらいに肌が白い。
そんな彼は、目を見開いて固まっている。
「ねぇ、お前……誰? 中身、違うよね。僕の知ってる人じゃない」
「え? 青本です」
「いや、誰だよ」
中身が違うってどういう事なのだろう。先程も俺の事を『アレク』と呼んでいたし。困惑した俺の表情を見て、彼は突然笑みを深める。
なんだ? もしや、ドSだったりする? コイツ。
「ねぇ、青本。敬語なしにしてくれる?」
「なんでですか」
「僕、敬語で話すの嫌いだから」
「自己中心なんですね」
俺の言葉に痺れを切らしたのか、俺の胸ぐらを掴んでこう言ってきた。
「 敬語で話したら君の薬指、ナイフでプツンと切っちゃうかも」
怖すぎて、口を紡ぐ俺。敬語で話したら、薬指が切られるとか正気じゃない。しかも、しかも、会ってすぐの会話とは到底思えなかった。
俺は無言で首を縦に振る。一方、彼はクスクスと笑い俺を揶揄っていた。その声は、何処かで聞いた事あるような気がした。女性の声よりは若干、低い声。何だかその声が心地いい。そんな声の持ち主である、彼のサファイヤの瞳が俺をじっと見つめてくる。
「お前はとても良い子みたいだから色々、教えてあげる。しっかり聞いてね」
そう言葉にしてから、 説明を開始する彼。人間とは思えない正しい口調に、完璧な説明。しかも、処理能力も高い。突然、現れた俺みたいな異物をすんなりと受け入れた。よく考えたら可笑しな状況だ。こんなのまるで……。
「まるで、チュートリアルみたいだ……」
ボソッと呟いた言葉が彼の耳に入る。一瞬、彼の瞳が暗くなり揺らいだ。けれど、俺の言葉が無かったかのように説明をし続けている。
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数学教師の大いなる活躍は、SF世界だけ説 もんごる @sIzUkU1217
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